臆病者で何が悪い!
どれだけ経っただろう。一分くらいかもしれないし、ほんの数秒だったかもしれない。生田の手のひらが私の背中に触れた。
「これだけ警告してんのに……。もう、知らないからな」
ふっと息を吐くように零したその声は、泣きたくなるほど優しく感じた。
「……コートも着ないで、風邪ひくだろ」
生田が、地面に落ちていた私のコートを拾う。あまりに必死で、そんなことに気が回らなかった。コートを肩に掛けると、生田はそのまま私の手のひらをぎゅっと握り締めた。
そのままタクシーに乗せられている。生田はずっと黙ったままだ。ただ、手だけはずっと握られている。生田は今、何を考えているのだろう。緊張とドキドキでどうにかなりそうで。それが手のひら越しに伝わってしまいそう――。
収まらないドキドキのまま、生田の後に続き部屋に入る。生田の部屋に来たのは、これが三度目。目の前の生田を見つめる。その背中を見つめるだけで、心臓がどこかに飛び出してしまいそうだ。
「シャワー、浴びる?」
ずっと無言だった生田が、突然振り返った。
シャ、シャワー!!
そっか。まずは、シャワーか。こういうの、久しぶり過ぎてもうよくわからない。いっそのこと、部屋に入った途端いきなり、の方が余計なこと考えなくてすんでよかったかも……って、私は一体何を考えているんだ! とにかく、落ち着けっ!
「お、お先に、どうぞ」
かくかくとした動きで、そうなんとか告げた。
「……ん。分かった」
生田が、引き出物が入っているのか白い大きな紙袋を床に置いた。その音が異様に部屋に響く。私に背を向けて、ジャケットを脱ぎ、シャツのボタンを緩め、ネクタイを外している。ただそれだけなのに、もういっぱいいっぱいだ。思わず生田から目を逸らした。
生田が浴室へと消えた後、大きく息を吐いてベッドに深く腰掛けた。初めてでもないのに、私、緊張し過ぎでしょ。でも、こういうことするのは、もうずっと前のことで、その上、最後があれだったし。
『ヤりたい時にヤれればいいだけの関係だし』
ベッドに裸でいた私が、達也の背中越しに聞いたあの言葉。あの日以来――。
そんなこと、もうどうでもいい。ぶるぶると頭を振る。私が選んで、ここに来たのだ。
もう、逃げたりしない。
もっと一緒にいたいと思った。その気持ちに正直でいたい。