臆病者で何が悪い!
「……私、生田と違って、そんな余裕ないからっ」
恥ずかしすぎて。もう生田の胸に顔を隠す。
「よく言うよ。俺をあれだけかき乱しておいて」
「えっ?」
私の背中に生田が腕を回した。
「あんなカッコで現れて、田崎さんといちゃついて」
駄々をこねる子どもみたいに言うものだから、つい笑ってしまった。
「あんな格好って何? それに、私、田崎さんといちゃついてなんかいません」
「あんな格好だろ? いつもと全然雰囲気が違って。やばいくらい、綺麗だった」
「バ、バカ」
そういうことさらっと言って人を動揺させないでほしい。
「それなのに、沙都の隣には田崎さんが貼り付いてて。なんなんだ、あの人」
「な、名前……」
もう、当たり前のように”沙都”って――。
「ん? ああ。もう、名前で呼びたい。いいよな……?」
頷くので精いっぱいだ。
「――もう、だめ。あんな格好、人前でするな。俺が、俺でいられなくなる」
「何よ、それ」
この人、どうした? もう、誰だかわからなくなるくらい――甘いんですけど。
「分かってんの? 俺があんな風に感情コントロールできなくなったの初めてだってこと。女のことで取り乱したことなんてないんだよ」
私の肩を掴み、私の顔を覗き込んで来る。
「し、知らないっ」
どれだけ、私の心を溶かすつもり?
何年もかけて構築して来た心を守る壁が、あっという間に崩されて行く。
どうしよう。
こうして素肌で抱き合ってまどろむこの時間が、怖いくらい心地いい。私の顎に手を掛けたかと思うと、その眼差しにまた急に熱が帯びて。生田が唇を重ねる。
ん――。
長い口付けのあと、少し唇を離して惚けた私の顔を見つめて来る。
「誰も、知らなくていい。沙都のこんな顔も、本当は誰より女らしいところも……」
もう、何度目のキスだろう。長い指が私の髪に差し込まれて、そのキスはまた深くなる。
「……この身体も、心も、全部俺のものだから。もう、遠慮なんかしない」
そのキスはとにかく甘くて。その甘さが私を変えてしまいそうで。心の奥底で、少しだけ怖くなった。