臆病者で何が悪い!


「内野さん、おはよう」

「おはようございます。土曜日は、お疲れ様でした」

すぐさま頭を下げる。

「内野さん、突然帰るからびっくりしたよ」

「あ……すみません」

席に座った田崎さんが、椅子ごと私の方に向く。

「どうしたの?」

「いや、ちょっと、急用を思い出して」

もっと上手いこと言えないものか。咄嗟に出た稚拙な言い訳に自分で呆れてしまう。

でも――。生田もいるのに、どうして生田には何も言わないのだろう。

それを不思議に思っていたら、田崎さんが生田の方にちらりと視線をやった。

「そう言えば、生田もいつの間にかいなかったかな」

「あの日は、疲れてしまいまして」

背後から、抑揚のない冷めた声。

「ふーん」

「た、田崎さんは、どうされたんですか? うちの同期と一緒に飲みに行かれたんですか?」

何となく不穏な空気が漂いそうで、慌てて話を変える。

「いや。内野さんいないし、行っても仕方ないよね」

「え……っと」

田崎さんが意味深な笑みを浮かべて私を見た。

「――なんてね。せっかく同期で楽しむところ、先輩がいたら心から楽しめないでしょ? その辺は僕だって空気を読むよ」

「なるほど……」

愛想笑いを浮かべるのが精一杯で、ただひたすらに他の人が早く出勤して来てくれるのを待った。

「おはよう」

そこに、救世主のごとく係長が出勤してきて盛大にホッとする。

「おはようございます!」

「なんだよ、内野さん。やけに元気がいいな」

「いや、いつもと同じです」

ほっとし過ぎてしまった。
それにしても――。この席が、こんなに居心地悪いものになるとは。非常に、落ち着かない席になってしまった。

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