臆病者で何が悪い!
お昼休みになり、私は待ち合わせの一階ロビーへと急いだ。昨晩、希にメールをしておいたのだ。
体調を崩したという希のことが心配でもあった。そして、希には、生田とのことを話しておこうと思ったのだ。
生田と、初めて肌を重ねたこともあるのかもしれない。一番の親友である希には言っておきたいと思った。
「沙都、ごめんね。お待たせ」
「ううん。私も今来たところだから」
エレベーターホールから現れた希は、少し疲れて見えた。
「体調大丈夫なの? ここ数日体調悪かったんだって?」
顔色も、あまりよくない。
「ううん。もう大丈夫。それより、土曜日の二次会の様子教えてよ。遠山君の奥さん、どんな感じだった?」
「ああ、遠山ね。奥さんにデレデレだった。奥さん、凄く可愛い人でね――」
それでも笑顔を見せてくれたからそれに応える。
二人でいつも来るレストランに入り、注文も早々に済ませた。
昼休みはすぐに終わってしまう。
「どうしたの? 沙都から話って」
「うん、実は――」
こういうの、結構、緊張するものだな。テーブルの上の水を一口飲み、心を落ち着けた。
「私、生田と今、付き合ってるの。って言っても、まだ付き合い始めて1か月半くらいだけど」
「えっ!」
希が大きな目をさらにまん丸くして私をじっと見ている。今にも瞳が零れ落ちそうだ。
「驚くよね。うん。分かる。私自身も、冷静になると未だに信じられないところあるし」
分かるよ。その反応。生田って、恋愛みたいに感情をふんだんに使う作業、しなそうだもんね。
「じゃあ、あの飲み会で生田君が言ってたこと、やっぱり嘘じゃなかったってこと?」
「いや、あれは嘘だったんだけど……」
生田のあの変な誤魔化しのせいで、よけいにややこしい。まさか、私が田崎さんを好きで、希と付き合うことになったことを知って落ち込んだところを生田が慰めてくれたのがきっかけで――なんてことを言えるわけもない。
「同じ課で、なにかと一緒にいることが多くなって、それでなんとなく」
うん。それならあんまり違和感ないだろう。完全な嘘ってわけでもない。
「へーっ! 生田君、やっぱり沙都のこと好きだったんだね! だから私、そう言ったじゃない」
「そ、そうだっけ?」
「ということは、沙都も生田君を好きになったんだね? あんなに『私は恋なんかしないで一人で生きていく覚悟はある!』って宣言してたのに」
「そ、そうだね。好きに、なっちゃったみたい……アハハ」
痛いところを突いて来ますね……。私だって、誰かと恋愛する予定はなかった。ただ、田崎さんを見て癒されてればいいだけだったのだ。
「そんなわけで、とりあえず希には生田のことを言っておこうと思って。それだけ」
いろいろ根掘り葉掘り聞かれても困る。早い所話を切り上げた方がよさそうだ。
「それだけって、それで話を終わらせるわけがないでしょう? あの生田君だよ? 付き合うとどんな感じなの? 私たち同期には、本当にいっつも同じ顔で、大声で笑ったこともなければあんまり喋りもしないし。だから、凄く、すっごく興味ある!」
希の顔が近い。非常に、近い。