臆病者で何が悪い!
そして、俺の真正面に来たところで両手をズボンのポケットに突っ込み足を止めた。
「いつもは、嫌味なほどにポーカーフェイス決め込んで、余裕たっぷりで。そんなおまえが、内野さんのことになるとその表情が崩れてることに気付いてる?」
おそらく、そんな俺に気付いているのはこの人だけだ。
だからーー。
「何に対しても欲なんてこれっぽちも見せないで、それでいて何でもそつなくこなして飄々としてさ。そんなおまえが、彼女のこととなるとムキになる」
「……それで? 何が言いたいんです?」
そうただ淡々と口にした。
田崎さんが、ふんと俺を見下したように笑う。
「別に。ただ、それが面白いだけだ」
それがあんたの本性か。
「面白い……」
「ああ、ものすごく面白いよ。僕は、おまえみたいな奴が嫌いだからさ」
「――まあ、好かれているとは思っていませんでしたけど」
どんな思考回路だか知らないが、田崎さんにどう思われようと興味はない。
俺が、溜息をつくようにそう言うと、顔を近付けてニヤリと笑い出した。
それは、笑っているようで、目はまったく笑っていなかった。
「そういうところだよ。どんな状況でも動じないところ。気に入らないな。だから、余計に、もっともっとおまえが動揺するところが見たくなる」
「随分、歪んでますね」
バカバカしい――。
俺は、田崎さんの横をすり抜け別のデスクに手を掛ける。
「酷い言われようだなぁ。でも――」
背後で憎たらしいほどに朗らかな声がした。
「そんな僕のことを、内野さんは好きなんだよな? そして、そんな内野さんのことを、おまえは我を忘れるほど好きで仕方がない」
不覚にもデスクを動かそうとしていた手が止まってしまう。
バカバカしいと思えていた感情が、違う方向へと動き出す。
「こんな楽しいことないだろ」
今にも笑い出しそうなその声に、感情が先走り振り向いてしまった。