臆病者で何が悪い!

ホントに、あの人の言う通りだな――。

沙都のことになると、こんなにも余裕がなくなって、無様な自分が顔を出す。

「ねぇ、どうしたの……っ、ちょっと待って……。今日はダメ、あ……っ」

平日なのに、決して早くはない時間なのに、勤務後に強引に沙都のマンションに押し掛けて。
部屋に入るなり、乱暴に腰を引き寄せ激しいキスをぶつけている。

「分かってる。最後まではしない」

どうしようもねーよ。
悔しくて、不安で。たかが、あんな挑発で――。

玄関でかろうじて靴を脱ぎ、腰を抱いたままベッドへとなだれ込む。

それと同時にすぐさま再び唇を塞いだ。
舌を絡めて深い口付けを繰り返す。

最初は強張っていた身体が緩んで行くのが分かる。

「沙都……」

「……っ」

キスを繰り返しながら、コートを脱ぎ、ジャケットを脱いだ。
沙都の服越しに身体を撫でれば、その身体を何度も跳ねさせた。

「……気持ちいい?」

耳たぶを含みながら囁く。

もっと見せて。その感じている顔を。俺だけに見せる女の顔を――。

「ん……」

悩まし気に眉をしかめて、顔を真っ赤にして。

「安心しろ。これ以上のことはしないから。だからキスにだけ集中して」

そう言うと、本当に安心したかのように俺の舌を受け入れ始めた。

もっと、もっと感じて。俺のことだけ、感じて……。

沙都の方から俺の首に腕をまわしてくれた。その背中をきつく抱きしめる。

「沙都……。俺のこと、好きか……?」

キスの合間に思わず出てしまった掠れた声。

一度も聞いたことはなかったのに。
沙都からもはっきりと言われたことはない。

どうしたら、安心できるのだろう。
どうしたら、沙都の気持ちに自信が持てるのだろう。

こんなにも愛おしく思っているのに。
想えば想った分だけ、俺にも想いが返ってくればいいのにーー。

恋愛がそういうものじゃないことは、俺が一番分かっている。

高校時代まではともかく、大学時代に付き合った相手のことは、自分なりに好きなんだと思っていた。

大学に入って二年目の春に出会った、一年先輩の女性から告白されて交際を始めた。
最初から、なんとなく感じのいい人だと思っていたからごく自然に付き合えた。自分ではそう思っていた。

でも――。
その好きが、相手の求める「好き」には達していなかったみたいだ。

『ねえ眞、私のこと好き……?』

何度もそう聞かれた。
そう聞かれるたびに、言葉で確認することに何の意味があるんだろうと思った。
でも、同じセリフを今、自分が吐いている。
自信がなくて聞くのも怖いのに、不安で確認せずにはいられない。
今になって、当時の彼女の気持ちが分かるなんて。
沙都と付き合うようになって、俺は当時付き合っていた彼女の気持ちを追体験している。
まさに、あの時の彼女が俺なんだ。

”俺なりに”大事にしているつもりだった。
でも、それは、すべて受け身だったんだ。
彼女の希望にこたえていれば、それいいんだと思っていた。
電話がかかってくればそれに応え、メールが来れば返信をする。
会いたいと言われれば会い、「好きって言って」と言われればそう言った。

だからーー。
沙都と付き合うようになって、沙都の気持ちが手に取るように分かって少ししんどかった。

まさに、あの時の俺と同じだから――。
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