臆病者で何が悪い!
「それにしても今日は、おまえから俺を部屋に連れ込むなんて、いつになく積極的だな……」
沙都のマンションへと着き、沙都の後に続いて部屋に入りながらそう言った。
「やっぱり、何かーー」
「ダメ、かな」
「ダメなわけない。だけど、どうしたのかって気になるだろ?」
こちらを振り向かない沙都の前に回り込む。どう考えても、様子がおかしい。
「やっぱり落ち込んでんだろ。あの企画官が――」
あのハゲのデリカシーの欠片もない発言だろう。
それに沙都はずっと笑顔で応えていた。
「違うの。そうじゃなくて……っ」
声を張り上げたと思ったのにまた口を噤み、沙都はそのまま床に座り込んだ。
「じゃあ……」
俺も沙都の隣に腰を下ろす。そして、そっとその顔を見つめた。
「私らしくないって、引かないでね」
「引いたりしねーよ」
「……あの、今日、生田が宮前さんとずっと一緒に飲んでたから、それで……」
「……え?」
思いもしない沙都の言葉に、一瞬言葉を失う。
「ほら! 生田、今『こいつ、何言ってんだ』って思ったでしょ! 分かってるって。そういうの、言っても可愛い女じゃないって――」
一人取り乱す沙都を見ていたらたまらなくなって、思わず抱きしめていた。
「もしかして、嫉妬した?」
「……うん」
抱き締めておいて良かった。おそらく今、俺はとんでもなくにやけている。
こんな締まりのない顔、沙都には見せられない。
「不安になって、それで思わず俺を持ち帰って来たのか?」
「……うん」
否定をするでもなく呆れるでもなく、強がるでもない……。
素直に認める沙都が、これまでとは違って見えて、俺の心の中は大変なことになっていた。
まさにフィーバー状態だ。
「だって、宮前さん、女性らしいし綺麗だから……」
だからーー。
そんな風にしおらしくされたら、このまま押し倒したくなるじゃないか。
でも、こんなに素直に嫉妬してくれる沙都も貴重だ。このまま、もう少しこの状況を楽しみたい。
それくらい、許されるよなーー?
これまでの、沙都の「あんたのことはそれほど」的な言動の数々に地味に傷つき続けて来た自分を癒してやりたいなどと、アホなことを考えてしまった。
「……なるほど。それに比べて、おまえは今日も大騒ぎして盛り上げてたな」
俺がそう言って笑うと、沙都がぎゅっと俺のシャツの胸元を握りしめて来た。
「だからだよ。だから余計……」
「ーー余計、なに?」
抱き締めながらその背中を優しく撫でる。そうすると甘えるように、より俺に身体を寄せて来た。
「女性らしさの差を、生田に実感させてしまったかと……。それで、後悔、しちゃったりとか……」
もごもごと口籠るように喋っているくせに、握りしめる手のひらには力が込められていて。
俺はもうたまらなくなって沙都の肩を掴んだ。
そして、その顔の正面から見つめる。
「なあ、知ってる?」
不安そうな表情をした沙都が俺を見上げた。
「おまえがそうやって、女捨ててるつもりでも、三枚目役買って出てる姿見せても、俺にとってはそれが全部お前の魅力のスパイスになっちゃってるってこと」
「どういう、意味……?」
考え込むような目をした沙都が、増々可愛く思えて仕方がない。
もう一度抱き寄せて、その首筋にキスを落とす。
「ん……っ。ど、どしたの? 突然……」
声が変わる。甘い声を漏らし、身を捩らせて。
薄く開いた唇は、女の顔になった沙都のものーー。
「こんな風に抱きしめてキスして、その時に見せるおまえの姿とのギャップになるんだよ。それが余計にそそるって知らなかった?」
「い……、生田っ」
指で耳たぶに触れれば、沙都から力が抜ける。