臆病者で何が悪い!
沙都は、自分のことをよく「女として見てもらえない」と言う。
でも、その原因の半分は自分のせいだ。
わざと予防線を張って、女を捨てて。そんな振る舞いをしているからだ。
そんな女にわざわざ目を向けるような面倒なことをする男は多くない。
だから、本来の姿の魅力を自分の手で消しているだけのこと。
魅力がないわけじゃない。
俺は、優しい人間でもなければいい人間でもない。
俺だけが分かっていれば、それでいい。気付きもしない男に教えてやる義理もない。
俺だけが知っている、沙都の本当の姿ーー。
「俺だけがおまえの魅力に気付いてる。それって、ものすごい優越感なんだ。そういうのが、たまらないんだよ」
沙都を抱きしめて、首筋にキスをするのをやめずに、そう告げる。
「う、うん。分かった。分かったから……」
やめてってことだろうか。
嫌です。やめません。
「おまえは、俺にとって、たまらなく魅力的な女だ。知れば知るほど、やみつきになる」
「もう、いい。分かった! だから、ちょっとたんま!」
沙都が俺の胸を押す。
「たんまって……。この雰囲気の中で色気のないワードを言うな」
俺は思わず吹き出してしまった。
「だ、だって。生田、やめてくれないから」
「もう、不安は消えたか? 不安が完全に解消したならやめてやる」
沙都の前髪を優しくかき上げ、その表情全部を露わにした。
「うん……」
笑っているつもりなのだろうが、それが完全な笑顔ではないことくらいお見通しだ。
どうしてこうも自己評価が低いのか……。
でも、沙都がそういう人間だということを誰より理解してやりたい。
「……まったくおまえは」
ベッドに背を預けて座り、沙都の身体を自分の胸に引き寄せた。
頭を撫でながら、沙都の髪に唇を寄せる。
「俺、こんなにいろいろ感情揺さぶられるの、おまえが初めてだよ? 自分でだって初めて知る自分ばっかりで、この歳になって驚かされてる」
俺の胸の中でじっとしていた沙都が、息を吐いて呟いた。
「やっぱり、生田は変わってる。私みたいな女にそんな風に思うなんて」
沙都を腕に引き寄せて髪に口付ける。
「変わってんのかな……。でも、俺の”好き”は結構本物だと思うけど」
「え……?」
沙都を見て来た時間は、決して短くない。
俺が、初めて沙都に出会ったのは、大学四年の晩夏だ。