臆病者で何が悪い!
なんとなくだけれど、あの時近付いて来た男が俺だったなんて知られない方がいいような気がしている。
あんな無防備な姿、赤の他人だったから見せられたのだとしたら、今更俺だなんて言ったら沙都のことだ、恥ずかしいと思うだろう。
それに――。そんな時からずっと見ていたなんて、『キモチワルイ』なんて思われても不都合極まりない。
「見て来たって、どれくらいーー」
「ずっとだよ」
俺は、この四年、おまえのことしか見ていないんだよ――。
その夜、沙都の部屋のシングルベッドで沙都を腕に抱きながら眠りについた。
ただ、抱きしめるだけ。
もちろん抱き合う時間もたまらなく満たされるけれど、こうして触れ合って一緒に眠るだけでも男だって十分安らぐ。
好きな女だからこそ、なのかもしれないけれど。
「生田、めちゃくちゃかっこいいんだから、綺麗な人だって有能な人だって女なんて選び放題なのにね。わざわざ私とか、なんだかすごく勿体ない……なんて、ふと客観的に思ったりするときあるよ? 僻むとか拗ねてるとかそういうんじゃなくてさ」
カーテンを閉めた部屋は真っ暗だけれど、目が慣れて来たのか、沙都の顔はちゃんと見える。
暗いのをいいことに超至近距離だ。
「俺、綺麗なだけの女とか、興味ないんだ。だから、宮前さんとか見ても特に何も感じない。って言うか、そもそもあの人、綺麗なの? 俺にはよくわからん」
「なに、それ。すっごいこと言ってるよね」
俺の腕にくるまれている沙都が笑う。
「本当のことだ。美人耐性があるというか……。外見が綺麗だとか可愛いからって、特に何も思わない」
「美人耐性……?」
「そ。俺、美人って見慣れてたから、それだけで惚れるとか、まずありえねーな」
「見慣れてるって、それ、誰のこと……?」
驚いたように、そして少し怯えたように沙都が俺の腕の中から顔を出して来た。
「俺の姉貴」
「お姉さん?」
「そう」
そうなのだ。俺の姉貴は、世間で言うところの絶世の美女。
そして、超強烈な女。
あんなのを物心ついた頃から見ていたから、綺麗なだけの女に騙されたりなんかしない。