臆病者で何が悪い!
慌てて、危うく椅子を後ろに倒しそうになるほどに勢いよく立ち上がった。
「初めまして! 私、眞さんの同僚の内野沙都と申します。お留守の間に、お邪魔させていただいております」
ちゃんと顔を見ることも出来ないままに、すぐさま頭を下げた。とにかくまずは挨拶をしないと――。そのことしか頭になかった。
「姉貴。俺の彼女の沙都さんだ。くれぐれも失礼のないように」
隣に、生田も立つ。
「彼女……?」
ひいっ――。
心臓を震わすような低い声が私の身体を凍り付かせる。弟の彼女という存在に、目を光らせているところだろうか。じりじりと後頭部のあたりに視線を感じる。
「あんた、ゲイじゃなかったんだ」
ゲイ――?
「そんなわけで、沙都をよろしく」
お姉さんに負けず劣らずの冷たい声。”ゲイ”発言は華麗すぎるほどにスルー。
「沙都、もう座ろうか」
かと思ったら、別人格に切り替わったかのように優しい声が私の頭上に降って来て、そして優しい手のひらが私の肩にあてられる。
「きゃーっ! 今、キュンとしちゃったわ。眞が微笑んでる!」
突然、お母さんの悲鳴。
「何、その表情。そんな顔できんだね、アンタ」
そして、お姉さまの声――。
えっ、え……? なにが?
お姉さんの足が私の視界に入って来る。それで、私たちとの距離を詰めて来ているのに気付いた。