臆病者で何が悪い!


やはり思った通りだった。係は違うとは言え、業務の内容の大枠は同じだ。資料のミスも単純なもので、ただ入力が面倒というだけのものだった。

『免税店で限定コスメ買って来るから』

という言葉を残して、結城さんは帰って行った。

仕事の後に何の予定もないから、こんなことくらいどうってことない。家に帰ってごろごろしているか、仕事をしているか。それだけの違いだ。

「内野さん、本当に君は優しいね」

「え?」

帰り支度をしていた田崎さんがそう言った。

「結城さんの仕事。引き受けてあげるなんてさ」

「ああ。別に、こういう時はお互い様ですから。それで私が何かを犠牲にしているわけじゃないですし」

仕事の手を止めて田崎さんの方を向く。そこには、労わるような優し気な顔があった。

「そういうとこ。恩着せがましくもないところだよ。自分の仕事だってあるのに」

心配そうな目でそんなことを言われたから、私は慌てて笑顔で返した。

「今日一日で終わらせなくちゃいけない仕事はないので。配分すれば支障ないです。田崎さんも、私のことはお気になさらずにもうあがってください」

帰ろうとしているところ、残っている私に気を使ってくれているのだろうか。
それでは申し訳ない。私は、自分の好きでやっているのだと田崎さんに伝える。

「分かった。じゃあ、悪いけどお先」

「はい。お疲れ様でした」

田崎さんの優しい目元に、胸が温かくなる。

よし、もう少し頑張ろう。

田崎さんのおかげで気力も充分チャージ出来た。こんな些細なやり取りでも、簡単に私を元気にさせてしまえる。
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