臆病者で何が悪い!
* *
「ちょっと、遅くなったけど……」
目の前のローテーブルに、沙都の手料理が並ぶ。
沙都がそう、気まずそうに呟きながらキッチンから運んで来た。
「おまえのせいじゃないだろ」
昼飯が14時も過ぎたこの時間になってしまったのは、何も沙都のせいじゃない。
つい数十分前まで、抱き合っていたからだ。
「本当は、もっとちゃんとしたもの作りたかったの。買い物に行けなくて、こんなものしか……」
それも、俺のせい。
ここに突然乗り込んで来たから。だから買い物に行く時間を奪ってしまったのだ。
「だから。いいって言ってんだろ。美味いよ、これ」
沙都が作ったチャーハンを口に運ぶ。パラパラとしていて味もいい。
それどころじゃなくて忘れ去っていた空腹が蘇って来る。
「そう? 良かった……」
少しは安心したのか、沙都も口に運び始めた。
それを見て、俺も二口目をスプーンに盛る。
空っぽの胃に染み渡る温かさに、不意に胸の奥が刺激される。
最初から、この日はこんな風に過ごせるはずだった。
それを励みに、俺はかき乱されそうな心を必死で繋ぎ止めて来た。
それなのに、俺は――。
最後の最後、耐え続けて来た自らの努力を無にしてしまった。
「……生田?」
「あ、ああ、何?」
気付くと、じっと正面から見つめられていて慌てて沙都の顔を見る。
「お腹空いてないの? 手が止まってる」
その目は俺をうかがうような、気を使っているような目だ。
その視線に、またも胸がチクリと刺激される。
「そんなことないよ。朝から何も食べてねーし。あんまり美味しいから味わって食べてんだ」
咄嗟に作った笑顔は、多分、引きつったものになっているだろう。
それでも笑わないよりはましだ。そう思って懸命に笑顔を作る。
だけど。この部屋を見回しては、胸が嫌になるほど重苦しくなる。
沙都らしい、温かみのある部屋。
俺の部屋みたいに殺風景じゃない、物の溢れたどことなく賑やかな部屋。
だからこそ、苦しくなる。
もしかして、この部屋に、田崎が入った――?
いつ、どれくらい、なんのために……。
ああ、ダメだ。放っておくと俺の思考はこうして勝手に間違った方向へと向かってしまう。
「……ねえ、聞いてもいい?」
無意識のうちにこめかみに指をやると、沙都が俺に問い掛けて来た。
「なんだ?」
「今日、私が生田の家に行くってことにしていたのに、どうして生田はうちに来たの……?」
手にしていたスプーンを置いて、沙都が真っ直ぐに俺を見ていた。
「ああ、それは――」
田崎から電話がかかって来たからだ。