臆病者で何が悪い!
この日も気付けば私は居残り組だ。そんなことも、もう習慣になっているから何も感じない。
「今度は、先輩の世話?」
「えっ?」
仕事に集中していたから、突然声を掛けられてびっくりした。
「なんだ、生田か……。そうやって気配なく突然何か言葉掛けて来るのやめてもらえる?」
「気配を隠しているつもりはない」
私の席の傍に立つ生田の手には鞄がある。これから帰るところなのだろう。
「あんた、いつもそうやって誰かれ構わず手助けして。ボランティア団体?」
「別にいいでしょう。困った時はお互い様。私は、生田みたいに要領よく仕事が出来るタイプじゃないし、いつ自分が助けてもらう日が来るか分からない。時間ある人間がやる、ただそれだけだよ」
同じ課で、同期で。生田は私と違って幹部候補のキャリア組だからというのもあるけれど、とにかく能力が高い。いや、キャリア組というのはもはや関係ない。キャリアの人だって無能な人はいるし。仕事早いし無駄がないから、無愛想だけど上司からの信頼も厚い。それは同じ課で見ていれば分かる。そんな人間だから、生田は誰かに助けてもらうこともないんだろう。
「お互い様って、あんたが誰かに助けてもらってるところなんて見たことないけど?」
「……え?」
何、その言い方。生田が私の何を知っているっていうの?
同期と言っても、5カ月前に同じ課になるまでろくに話したこともないし。同じ課になっても距離が縮まっているわけでもない。生田の言いぐさに、どこか違和感を感じる。
「なんなの? 別に、生田に迷惑かけてるわけじゃないし関係ないよね。もう仕事終わったんでしょ。お疲れ様」
ボランティア団体とか、いちいち嫌味だし。私みたいな人間をまるでバカだとでも言いたいかのようで。いい人やってなきゃ存在価値がない自分を突きつけられているような気がして、急に虚しさが襲って来る。
何でこんな気持ちにならなきゃなんないの?
生田から顔を逸らし、パソコンの画面をむきになって見つめた。生田は何も言わず、少しの間の後、部屋を出て行った。
なんなの?
さっさと帰ればいいものを。一人きりになったのをいいことに、盛大に溜息をついた。せっかく田崎さんのおかげでやる気一杯だったのに。急に気分が萎えて来た。
本当に、田崎さんと正反対だ!
椅子に大きくもたれ背を反らせた。