臆病者で何が悪い!
「――じゃあ、今日はお疲れ!」
ほろ酔いで、いい気分になっている鶴井さんが手を挙げる。
「今日はゆっくり休んでください。田中もな」
「はいっ! また明日から頑張ります」
無駄に動きの大きい会釈をして、声も大きい。典型的な酔っ払いだ。
二時間ほど飲んだだけで鶴井さんも田中もいい具合に出来上がっている。
それも、疲労が蓄積しているせいだろう。
帰りの方向も乗る電車も違うことから、駅前で二人とは別れた。
腕時計に目をやれば、21:15――。
身体は疲れているし、慢性的睡眠不足でもある。
それでも、俺はこのまま帰る気にならなかった。
飲んでもあまり酔えなくて、気分的にも重苦しいままで。
今日は何も考えられないくらい酔ってそのまま寝てしまいたい。
書庫での沙都の必死な声も。
田崎の言葉も。
何もかも。
駅とは反対の方へと足を向ける。
サラリーマンと思える人並みの中をただ歩く。
そして、飲み屋が連なる路地裏へと入って行った。