臆病者で何が悪い!
真っ暗な部屋に明かりをともす。久しぶりに訪れた生田の部屋は、毎日仕事に追われている人の家だとは思えないほどに片付いていた。
金曜日の同期の飲み会の後、ここに来ることになっていた。もしかしたら、生田は少し片づけてくれていたのかもしれない。そう思えて来て、また胸が痛む。ひんやりとした空気で一杯の部屋は、どこか私を責めているような気がした。
そんな気持ちになった自分が嫌で、すぐにエアコンのリモコンを手にした。コートを脱いで、部屋が温まるのを待つ。こうして、生田がいない時にこの部屋にいるのは初めてのことだ。だからだろうか、少し緊張する。むやみに歩き回るのもいけないことをしているようで、部屋の真ん中のテーブルの前でただじっと座る。そこからちょうど正面に見える壁に掛けられた時計に視線を向ける。そろそろ21時を過ぎようというところ。生田の係の人とで飲みに行ったのだろう。
何時まで飲んでるのかな――。
テーブルに頭を預ける。目を閉じても、生田の顔が浮かばない。そう言えば、最近、生田の本当の笑顔を見ていない気がする。以前は笑顔なんて見たことなかったけど、二人でいるようになって、少しずつ生田の別の顔を知るようになって。生田の私を見つめる笑顔はいつでも優しかった。でも、最近は、いつもどこか無理しているような笑顔ばかりだった。
早く帰って来ないかな――。帰って来てよ……。
目を閉じたまま、ずっと、生田のことを思っていた――。
玄関から鍵が差し込まれる音がして、目が覚めた。すぐに立ち上がり玄関へと走って行った。
「生田――っ」
「あれ? 沙都? なんで……?」
開いたドアの先から生田が現れたけれど、その姿は思ってもいないものだった。
「ちょ、ちょっと、大丈夫?」
生田が身体をぐらぐらとさせたかと思ったら、その場に倒れ込んだ。
「ああ、だいじょうぶ、だいじょうぶ」
「酔ってる?」
慌ててその腕を取るけれど、生田からはお酒の匂いがぷんぷんと漂って来た。
「一体、どれだけ飲んで来たの?」
玄関先に倒れ込んで、起き上がろうにも足元がおぼつかない。こんなに泥酔している生田を見たのは初めてだ。生田は酒には決して弱くない。だから、こんなにふらふらになるほど、それだけ飲んだということだ。
「鶴井さんたちと飲んで来たんだよね? 珍しいね、職場の人とこんなになるまで……」
腕とその肩を支えるも、そのままそこで座り込んだままもう動こうともしなくて。
壁にもたれたまま目を閉じていた。
「――ああ、鶴井さんたちと飲んだ後、もう一軒行ってさぁ」
目を開いたかと思うと、何故か今度は笑い出した。