臆病者で何が悪い!
「生田、こんなとこで寝ちゃダメだって」
今度は、玄関先にうつぶせに横たわってしまった。
「ちゃんと中に入ろう」
その肩を掴んで、起き上がらせようとしたけれど、そのまま生田が私の腰にがっしりと腕を回す。まるでしがみつくように、私のお腹あたりに顔を寄せて。
「いく――」
「なあ、沙都。おまえ、俺のこと、好きか……」
生田……。どうしてこんなに酔わなくちゃならなかったのか。視線の下にある生田の黒髪に触れる。
「あたりまえだよ」
好きに決まってるよ。
「おまえの『好き』は、LIKEだろ。俺のために、傍にいるのか……? 本当は、田崎さんのこと、まだ好きか……?」
顔は私の腰あたりに埋めたままで、生田がそんなことを言う。
その言葉は、私にとってあまりにショックで。そしてその衝撃は全部自分自身へと帰って来た
「俺が、おまえを縛り付けてる、の……?」
怒りでいっぱいで涙が出そうになる。その怒りは、自分自身に対してだ。
「……俺と付き合ったこと、後悔して、それでも、おまえは義理堅いから――」
生田の心の声で。ずっとずっとその心の奥底にあった思いなんだ。
「いっつも、自分のことより人のことばっか考えるからな。今回も、俺の気持ち考えちまったんだろ……? ホント、おまえはバカがつくほどのお人好し。だからこうして、俺につけこまれるんじゃねーか……」
生田が、そんなことを考えていたなんて――。
「俺はおまえとは違うからな、こうやって自分のことしか考えねーんだよ……」
――っ。
「い、生田……?」
生田の腕の力が強くなる。身体が軋むほどに痛い。
「……頼むから。俺のこと、好きになってくれ――」
そして、心も――。
「勝手なことばかり!」
痛くてたまらなくなって、気付くと私は声を荒げていた。
「一人で勝手な想像して勝手に私の気持ちまで決めつけてっ!」
生田の腕を力の限りで振り払う。
「田崎さんのことなんてどうでもいいし。生田は堂々としてればいい。いつもみたいに、俺には関係ないって顔してればいいんだよ――」
振り払った腕は、生田の額に置かれ、その下の瞼は閉じられていた。