臆病者で何が悪い!
「……そうだよな。最近の俺、だっせーだろ。余裕なくなって、仕事にまで影響して。おまえに愛想尽かされても、文句言えねーよな」
生田がふらふらと立ち上がる。まだコートも着たままのその背中は、とても寂し気に見えた。だけど。そんな弱さも全部、私に見せてくれて。その心の奥底の気持ちを吐き出してくれた。だから――。
「バカ、生田!」
その背中を後ろから抱きしめる。
「……バカで悪かったな」
そう言いながらも、その声はとっても優しくて。
「どうしてわかんないのよ、バカ」
広い背中を精一杯包み込む。
「……バカだから」
立ったままぎゅっと抱きしめ続ける。
「私にとって生田は、一番大事な人。どうしてそれが分からないのよ」
「分かんねーよ」
こんなにきつく抱きしめてるのに。こんなに胸は早く波打っているのに。
「田崎さんのことなんて、もうとっくに忘れてたよ。考えたこともない。いつも、生田のことばっかり考えて、そんな隙間1ミリも残ってないっつーの!」
「おまえ……」
「一緒にいて、私の顔見てて、そんなことも分からなかったわけ? 後悔って何よ! ホント馬鹿なの? 生田と付き合って知ったんだよ? 田崎さんなんかよりずっとずっと生田の方がいい男だって。だから後悔なんてするわけないじゃん。後悔どろか、もうけもんだよ。超ラッキー。最高。友達にも自慢して、見せつけてやるから。『どうやって手に入れたのよ?』なんて詰め寄られちゃって、『私なんかじゃ到底手に入れられるような男じゃないんだから』って答えてやるの――」
「沙都」
「私は世界一の幸せ者で……なのに、ごめんね。田崎さんのこと、黙ってたり、生田の気持ち全然分かってあげられなかったり、ごめ――」
最後の方は自分が何を言っているのかよくわからなくなって、涙まで滲みそうになって。それでも言葉を尽して訴えたかった。もう、生田じゃなきゃダメなんだって。だから、懸命に喋り続けていたのに――。
「――んっ」
背中だったはずの生田の身体はいつの間にか私の方を向いていて、大きな手のひらで両頬を包み込まれたかと思うとあっという間に唇が塞がれた。
「――分かったよ」
唇を離した後にそう言うと、生田は「ごめ……っ」と呻き声を上げながらトイレに駆け込んだ。
「だ、大丈夫?」
後はもう、言わずもがな。生田はトイレの中で地獄のような惨状になっていた。可哀そうになって背中をさする。