臆病者で何が悪い!
「……そんなに飲んじゃって」
こんなに弱った生田を見ていたら、母性本能がくすぐられてか自然と声も優しいものになった。
「疲れも相当たまってるのに、そんなに飲むから」
苦しそうに肩を震わせて呻いている生田には、私の声なんて多分届いていない。
「……ごめんね。生田が大変な時、何にもしてあげられなくて」
何度も背中を手のひらで往復する。いつも頼り甲斐があって、冷静で、何にも動じなくて――。でも、今目の前にいる生田はとても弱々しく見えた。
「……沙、都。もう、いいから、あっち、行ってろ――っ」
途切れ途切れそう言った傍から、またも便器に顔を近付ける。
「気にしなくていいから。私は、生田の彼女だよ。他人じゃないんだから」
「もう、大丈夫。ありがと――」
少し落ち着いた呼吸になって生田が身体を起こした。
「うん」
「俺、シャワー浴びてもう、寝る――」
「うん」
それでもまだふらついている身体で、生田はバスルームへと消えた。
その夜、生田はシャワーを浴びてすぐに寝てしまった。後から生田の寝るベッドへと入ると、寝ているくせに無意識なのか目閉じたまま私の身体を抱き寄せて。その腕の中で、生田の呼吸に耳を澄ませた。
「……好きだよ」
本当に――。
さっき苦しんでいたのが嘘のように、穏やかに眠る生田に囁く。
生田の優しさに触れていても、心のどこかで、やっぱり”怖い”という思いがあった気がする。その想いをそのままに受け取ることを、拒絶しているような。
すべてを信じてしまったら、また、後で傷付くんじゃないかって。
生田を好きになる気持ちに、無意識のうちにブレーキをかけていた。
でも。心の底から生田のことを好きになっても、もう大丈夫だよね。
自分のストッパーを全部外して、防御壁も全部とっぱらって、心のままに好きになってもいいんだよね……。自分を守ることを捨てて、生田を想う気持ちだけでいられるかな。ずっと臆病な自分で。自信がなくて。私のことなんて好きになる男はいないと思って来て――。でも、生田は違う。
違うよね――?
静かで規則的な胸の鼓動に耳をあてる。大好きな人の体温は、私の心を落ち着かせる。もっとちゃんと、生田の傍にいるから。
だから、ずっと、傍にいて――。