臆病者で何が悪い!
「あれ……っ!」
「ん……なに?」
突然の大声に、目を覚まされた。
「本当に、いる……」
隣にいる生田が、身体を起こして私を見下ろしていた。驚きまくっている表情だ。
「どしたの?」
眠くてたまらない重い瞼をこすり、ゆっくりと目を開ける。
「てっきり、夢かと……。夢の中におまえが出て来て、俺が酔って帰ったら、沙都がいてくれてて、それで――」
生田が頭を抱えながら、唸っている。
「夢じゃないよ。ほら、ここにいるじゃん」
私も身体を起こし、生田の真正面に視線を合わせた。
「鶴井さんたちと飲んだ後、一人で飲みに行ったんでしょ?」
「そう! それで、久しぶりに相当飲んで、家に帰って来て――。夢じゃなかったんだな……。良かった」
そう言って、生田が突然私を抱きしめて来た。
「いい夢だと思ったんだ。自分に都合よすぎて、絶対夢だと思った」
「……バカ」
私は苦笑する。あれは、きっと、生田の本心。それを垣間見ることが出来た。私も、生田にちゃんと想いを伝えられたと思う。ここに来て、本当に良かった。
「昨日の生田は、ただの酔っ払いだったからね。レアな生田が見れたよ」
「もしかして、トイレに駆け込んだのも、夢じゃない……?」
身体を離し、恐る恐るそう問いかけてきた。
「うん。夢じゃない」
私がそう言ってにっこりとすると、生田が”しまった”という顔をした。
「ヒドイありさまだっただろ……。悪かったな」
「ううん。ああいう生田を見られたのも、なんか得した気分だったよ」
失態を見せたとへこんでいる生田を、今度は私から抱きしめる。
「酔っ払いの生田は、なんだか……可愛かった」
「ばか」
照れくさそうにそう吐き捨てつつ、私の髪に優しく指を入り込ませて。ぎゅっと抱きしめ返してくれた。
「なんだか、昨日は、カッコ悪いとこばかり見せた気がする。でも、来てくれて嬉しかった」
「うん……」
朝の陽射しが零れる部屋は、温かな空気が満ちている気がした。久しぶりに、心から穏やかな気持ちになれた。と思いつつも、今日も仕事があるわけで。ゆっくりそんな心地よさに浸っている時間があるはずもなく、私たちは慌ただしく出勤した。
「二日酔いになってない?」
「俺、寝る前に全部吐き出してたんだろ? そのおかげか、結構大丈夫」
「それなら良かった」
二人でマンションを出て最寄り駅まで早歩きで向かう。もう二月になろうという朝は、やっぱり空気が刺すように冷たい。
「それより、俺と一緒に出勤するイヤじゃないのか? 途中で別れるか」
首元のマフラーをずらしながら、白い息を吐いて生田がそんなことを言って来た。
「別に、いいんじゃない? 同期なんだし、普通に途中でばったり会ったって思うでしょ」
「まあ、それもそうか。確かに、付き合う前ならそんなことわざわざ考えもしないな」
納得したように生田が頷いた。