臆病者で何が悪い!
「私はそう思うから。田崎さんの心の奥にあるのは私への気持ちなんかじゃない。きっと、生田のことなんだと思う」
それでも、私はそのことを伝えたかった。たとえ、辛い事実だったとしても。
「……そうかな。本当に、それだけかな」
希が、窓の外をぼんやりと見ながら呟いた。
「え……?」
「沙都の言うように、生田君を良く思わない気持ちからなのかもしれない。でも、それだけだとはどうしても思えない」
そう言い終えると、私を正面から見つめて来た。
「私に『他に好きな人が出来た』と田崎さんは言ったの。そう言った時の田崎さんの表情は、嘘を言っているようなものには見えなかった。本当に久しぶりに私の顔を真っ直ぐ見てくれた。それが、そんな台詞だったのが皮肉だけど」
「でも――」
「私は、そうだと信じたい。自分が好きになった人だから。せめて、最後の言葉は本当のことだったと思いたい」
実際にはこぼれていないのに。希は、まるで涙を流しているかのようだった。
「そんな……」
そんな、哀しいこと言わないでよ――。
「沙都には生田君がいるもんね」
希は振り切るようにそう言った。
「沙都」
「ん?」
少しやつれた顔で希が微笑む。
「こんなことになっちゃったけど、これからも変わらず友達でいてよ」
「希……」
そんなの、こっちの台詞だよ。
「バカだな。あたりまえじゃん」
それなのに、私はろくなことを何も言ってあげられなくて。何もしてあげられない。ただ感じるのは――。田崎さんへの怒りだけだ。
どうして、希をこんな風に傷付けたりしたの――?
結局、希をこれっぽっちも元気づけることも励ますことも出来ずに別れた。昼休みを終えて自分の席に着けば、隣に座る人の存在に溜息が出る。
――アンタは本当に男見る目ないな。
いつか生田に言われたっけ。本当に、そう思う。
希はああ言ったけど、それでも私は自分の考えにそこそこの自信がある。生田を追い詰めるために私に言い寄るなんて、どんだけやり方が汚いなんだ。それに、回りくどい。そのことで、関係ない人まで巻き込んで傷付けるんだから陰湿だ。
あんなに憧れていた人なのに。私は一体、何を見ていたんだろう。出来る限り接触しないように。仕事だけは仕方がない。でも、極力、二人きりにならないように細心の注意を払わなければ――。これ以上生田や希に嫌な思いはさせたくない。これ以上ないと言うほど、私は身体中にバリアを張り巡らせた。