臆病者で何が悪い!

――気付けば、二月に入ってしばらく経ってしまっていた。

(わたくし、離婚が成立しました)

それは、生田のお姉さんからだった。初めて顔を合わせてからこうして時々メールのやり取りをしていて、お姉さんと私は”メル友”になっていた。

とうとう、離婚してしまうんだ……。最近メールが減っていたのは、そういうことだったのか。いろいろと大変だったんだろう。

(というわけで、また、ヤケ酒付き合って!! 気晴らしに東京行くから、飲み、行こう!)

私は速攻で返信を送った。

(もちろんです! いくらでも付き合います! 任せてください!!!)

何か他にも言葉を、と思ったけれど、結局何も浮かばなかった。

「というわけで、来週の土曜日お姉さん泊まりに来るから、ちゃんと布団とか用意しておくんだよ」

「なんでだよっ!」

「なんでって、お姉さん東京にわざわざ来てくれるんだよ? ちゃんとおもてなししなきゃだめ!」

「来てくれなんて頼んでねーよ」

そんな冷たいことを言う生田を責めるように見つめた。

「お姉さん、離婚して、寂しいだろうし、だから、少しでも元気づけたくて……って、聞いてる?」

私が話しているのに、お構いなしに身体を生田の手のひらが這う。

「今はまともに聞いてやれない。俺、欲求不満だから。一週間耐えてたんだ。ちょっと、もう黙れ」

「え? ちょ、ちょっと」

素早く組み敷かれて見下ろされている。その目は、完全に熱にまみれたもので。

「――大人しく抱かれてろ」

ちょっと待ってよ――と言おうとした唇はあっという間に塞がれて。
ケダモノのような男に、あとは好き放題致されてしまった。



「本当に、信じられない!」

「何が」

結局生田の思うままになって。
でも、本当はそれだけじゃなくて、自分自身が快感に溺れてしまったことが悔しくて。そんな自分を絶対に認めたくなくて、生田に背を向けた。

「もう、いいっ」

「怒ったのか……?」

そ、そんな甘えたような声を出したって、だめですから。

すぐにぐらつきそうになる心を叱咤して頑なに生田に背を向ける。
嫌というほど触れ合った生田の肌が再び私に重ねられて、優しく後ろから腕を回された。

「……仕方ないだろ。我慢してたんだから。職場で襲わないだけ、褒めてほしいくらいだ」

「しょ、職場って、何言ってんのよ!」

本当にこの人、信じられない。

「いつもいつも近くで、俺を誘うような気でも発してんじゃねーのか? 誘惑しといてなんだよ」

「誰が!」

誰がいつ、誘惑した!

「おまえを見てると、触りたくなる。触ったら、抱きたくなる。全部おまえのせい。俺は何も悪くない」

「な――」

開いた口が塞がらない。

完全に開き直ってるーー!

もう、知らないーーそう思ったそばから、素肌の背中に生暖かいものが滑って行く。

これだけ身体を蕩けさせて、まだ何かするつもり――?

「俺のこと色ボケだと思ってんだろ? その通りだよ。おまえの前では、ただのろくでなしになる……」

背中を行き交う唇で喋ったりしないでーー。

骨ばった大きな手のひらが背中から前に回されて。
膨らみやら凹みやらに、ゆっくりと触れて行く。

「……この身体は、誰にもやらない。この先ずっと、俺のものだから」

また、私は息を乱される。
気のせいかもしれないけれど、田崎さんとの一件があってから、以前にも増して生田は執拗に私を抱きたがる。そんな気がしてならない。

「二人でいる時くらいは、俺のことだけ考えてくれ……」

視界に入って来なかったはずの生田の顔が正面にある。そう気付いたらもう深く深く唇を重ねられて。息も出来ないほどの激しいキスが、私の身体を緩ませていく。
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