臆病者で何が悪い!
いつものように、生田よりも先に職場を出る。
向かう先は生田のマンション。まるで決戦の場に向かう武士のような気持ちになった。
誰もいない暗い部屋に足を踏み入れる。
週末よりも、少しだけ乱雑になっている部屋。それでも、私の部屋よりはずっと綺麗だ。
暖房を入れて、コートを脱ぐ。
そして、ジャケットから腕を抜く。
まだ暖まり切らない部屋の冷気が、ぐっと肌に刺す。
テーブルの上にチョコレートの入った紙袋を置いた。
シーンとした、物音ひとつしない部屋だから、自分の胸の鼓動が聞こえて来そうでよけいに緊張する。
心を決めてセーターを脱ぐ。
そして、真新しい下着の上に、この前買ってここに置いておいたバスローブを羽織った。
この下着見たら、何て言うかな。
似合わないって、思うかな……。
レースをふんだんに使った華奢な造りのもの。
明らかに私のようなガサツな女が扱えるものじゃない。
それに、これ……胸のふくらみを強調するようなカップの形になっていて。
本物以上に谷間が際立つ。
そもそも、こういうの好きなのかな……。
なんとなくの想像でこんなことを企んでみたけれど、生田にそういう趣味があるのかどうか分からない。急に不安になって来る。
どうしよう、ドン引きされたら――。
ここに来て襲って来る不安。
部屋で生田を待つ間、私は、緊張と不安と恐怖とでどうにかなりそうになっていた。
部屋はもう暖かくなっている。
むしろ少し暑いくらい。
それは部屋の気温なのか、自分の体温なのか……。
やっぱり、こんなことやめようか。
考えてみたら、バカみたいだよね――?
時間の経過と共に、勢いは消え、どんどんと冷静になってしまう。
最近、私、ちょっとおかしいのかも。
いろいろあって、不安になってるのかな。
生田の気持ちが離れて行かないかって。
田崎さんのことで気まずくなって、生田の心の奥底に私に対する不信感があるんじゃないかって気がしている。
だからと言ってそんなこと真正面から聞くことなんてできないし。
静かな部屋で、こんな格好で待っている自分が滑稽に思えて。
急速に萎えて来る。
チョコレートだけで、十分――。
そう思った時だった。
玄関のドアが開く音がした。
帰って来た――!
「あれ、沙都、来てるのか?」
もう今更もとには戻せない。
どうにでもなれ――。