臆病者で何が悪い!
「沙都、さんっ!」
土曜日の夕方、東京駅の新幹線口の改札で待っていると、生田のお姉さんが小走りで私の方へと向かって来てくれた。
「お姉さん!」
年末にお会いしてからまだそんなに経ったわけでもないのに、少し痩せたような気がする。もともとスタイル抜群だったのに、どことなく痛々しさを感じてしまうほどだ。それでも、私の顔を見つけて満面の笑みをくれた。
「会いたかったよ。今日は、私のためにせっかくのお休みの日空けてくれてありがとね」
改札を潜り抜けると、すぐさま私の手を握りしめてくれて。その綺麗な瞳が潤んで、相変わらずの麗しさだった。長い髪がさらさらと肩を滑る。それに、とってもいい匂いがする。
「私の方こそ、こうして来てくだって本当に嬉しいです」
女二人の騒ぎようとは裏腹に、少し距離を置いて壁にもたれて立っていた生田が呆れたようにこちらを見ていた。
「――そろそろ、いいか? 人通りの邪魔になるぞ」
「ほんっとに、可愛くない。こうしてお姉さまが上京してきてんだからさ。嘘でも嬉しそうな顔したらどう」
私に向けていた笑顔はさっさと消えて、心底憎たらしそうな表情をした。そんなお姉さんは、ある意味表情豊かだ。
「いい大人で、姉貴に会ったからってはしゃぐ弟なんかいるかよ」
「アンタ、来なくて良かったのに。私と沙都さん二人だけの方が絶対に楽しめる。雰囲気壊すだけで、ろくなことない」
「こっちだって、あんたのため来てるんじゃねーし。沙都がいるからだろ」
「ちょ、ちょっと、生田……っ」
結局私が、この二人の間に立つと、右往左往することになる。
「とりあえず行きましょうか! いい店、予約してあるんです!」
「ほんと?」
「ホントです! お姉さん行きましょ」
お姉さんの腕を掴み、その場を後にする。私と生田がどこかへ出かけた時の帰りによく寄っていた居酒屋へと向かった。
「こういう雰囲気、なんかいいね! 堅苦しくなくて」
お姉さんが店内を見回しながら、嬉しそうにそう言ってくれた。
「もっとお洒落なお店もいいかなとも思ったんですけど、でも、こいう方がくつろげるかなって。生田とそう相談したんです」
「俺は特に意見してないよ。全部沙都が決めたんだ」
テーブル席に着き、お姉さんの正面に座り、その隣に生田が座った。
「そんなこと、あんたに言われなくても全部分かってるから。沙都さん、本当にありがとう」
「じゃんじゃん飲みましょう」
「そうだね」
隣から溜息が聞こえて来たが、それは軽く受け流し。
「すみませーん。とりあえず、生3つお願いします!」
いつもの私の本性が騒ぎ出し、カウンター席にいる店員さんに声を張りあげた。
それから三時間後――。
辛そうなことには変わりないけれど、年末に会った時よりは幾分吹っ切れているように見えた。