臆病者で何が悪い!
「この状態じゃ電車には乗せられないし、タクシーで帰るか」
会計を済ませた生田が、お姉さんの肩を抱き上げる。
「う、うん。ありがと」
「そう言えばおまえも相当に飲んでたな。一人で歩ける?」
「大丈夫。これくらいじゃ平気だから」
そう言って笑ってみせたのに、生田が私の腕を掴んだ。
「い、いいよ。大丈夫――」
「いちおう、念のため」
口元を緩めて私を見つめてくれる。でも、その笑顔にもなぜだか胸が痛くなる。
片方の腕でお姉さんをかつぎ、もう片方の手で私が歩くのを支えてくれている。
タクシーを止めると、お姉さんを奥に追いやり、その隣に生田、そして最後に私が乗り込んだ。
「今日は、本当にいろいろありがとな」
運転手さんに行先を告げるとすぐに、生田がこちらを向いた。
「ううん。私も楽しかったし。それより、お姉さん、少しでも気が紛れたならいいんだけど……」
「それなら、十分だ。今日、姉貴、笑顔も見せてただろ? そりゃあ無理して笑っていた部分もあるかもしれないけど、それでも笑えるってことが大事だから。全部、沙都のおかげだ」
そんな優しいことを言えるくせに――。
「どうして、生田はお姉さんにもう少し優しくできないの?」
「優しくなんかできるか。俺にとっては本当に迷惑以外のなにものでもないんだからな」
まあ、確かに。姉弟だからこそ、面と向かってストレートには優しくできなかったりするよね。それでも本音で、他人じゃ言いづらいことも言える。言ってあげられる関係なのかもしれない。
「沙都さんっ!」
「なんだよ、急に起きるなよ!」
ドアにもたれて寝ていると思われたお姉さんが急に声を上げた。
「帰らないで。私を一人にしないで。沙都さんも一緒に行こうよ! こんなやつと二人とか、耐えられないっ!」
「……えっ?」
お姉さんが生田を飛び越えて、私の腕をがしっと掴んで来た。
「この手、絶対離さないからね」
それだけ言うと、また静かになった。でも、腕だけはずっと握りしめたままで。
「……だってさ。どうせ明日も付き合うんだし、おまえも来いよ。俺一人じゃ、手に負えない」
生田が大きく溜息をつく。
「うん」
素直に頷いた。
「そうなると、ますます邪魔だな、この女」
ぼそっと呟いた生田の声には聞こえないふりをした。