臆病者で何が悪い!
「ほらっ、しっかりしろ!」
「うーん」
私と生田とでお姉さんを抱えて、マンションの部屋へと入った。部屋にはちゃんと、お姉さんの分の布団を準備してある。
「ほらっ、起きろ。ちゃんと寝る支度をしてから寝ろ!」
素早く布団を敷くと、生田がそこにお姉さんを転がした。転がす。まさに、そんな感じだ。
「お姉さん! 起きられますか? お姉さんっ」
「もういいよ、放っておけ」
「でも」
確かに、気持ちよさそうに寝てしまっている。枕に抱き付いて寝息を立てていた。
「おまえも、シャワーでも浴びてゆっくりしろよ。一日姉貴に付き合って、疲れただろ?」
「うん、ありがとう。じゃあ、お先に」
ここに置いてある部屋着を手にしてバスルームへと向かった。
蛇口をひねり、シャワーからお湯を出す。冬のバスルームはひんやりとして鳥肌が立った。最初は冷たかった水が、だんだんとお湯へと変わり、頭からそれを浴びた。
生田、いつもと変わらない。良かった……。
多分、生田は深く考えていないだけだ。
結婚――。私も、深く考えるのはやめよう。多分。考え始めたら、気持ちが暗くなるような気がする。楽しいままでいたい。
先のことを考えたら、苦しくなる。明るい未来を無邪気に思い描けるほど、私は楽天家じゃない。何かを必要以上に期待して、期待を裏切られるのは嫌だ。不用意に傷付いたりしたくない――。
頭をぶるぶると振る。頭上から落ちて来るしぶきに顔を向けて、もやもやとした感情もすべて洗い流した。
「お姉さん、やっぱり起きない?」
バスルームから出ると、ベッドの淵にもたれかかって生田が座っていた。手には何か本がある。
「ああ。もう、ぐっすりだよ」
私の声に顔を上げてくれる。それはいつもの優しい表情だ。
「お姉さんも、疲れたんだね」
そっと生田の隣に腰掛ける。そして膝を立ててそこに顔を載せてお姉さんを見つめた。
「本当に、この先は、幸せになってほしいな……」
思わずそう呟いてしまった。お姉さんの寝顔は、とても幼く見えて。なんだか胸が切なく疼いた。