臆病者で何が悪い!
「大丈夫だろ? 心の友も出来たみたいだし?」
「え? 心の友?」
なんのことだか分からなくて生田の顔を見上げる。
「おまえのことだよ。もう、完全に心許してるだろ。何かあった時、こうやって話聞いてもらえる相手が出来たってだけで、姉貴にとっては幸せなことだ。これまでは、取り繕った自分でしか友人関係も築けなかったんだろうからな」
「そ、そうかな……」
「そうだよ。おまえには面倒かもしれないけど、よろしく頼む」
そう言って手にしていた本をテーブルに置くと、生田が私の頭をぽんぽんと撫でた。
「面倒なんかじゃないよ」
生田の手のひらが頭の上から、肩へと滑り、そっと私を抱き寄せる。私はただされるがままに、生田の胸に身体を預けた。落ち着くんだけど、どことなく切ない。そんな妙な気分になった。
「――あのさ」
生田の静かな声が、胸に当てた耳に響く。
「今月末、俺、一週間くらい出張になる」
「出張?」
私を胸に抱きながら、生田がそう言った。
「ああ。九州回る予定。新しい制度の県に対する説明とか、もろもろで」
「そっか。分かった」
一週間か。そんなに長い間顔を合わさないの、初めてかも。
「――その間、田崎につけこまれるんじゃねーぞ」
「ばか。大丈夫だよ。信じて」
「冗談。信じてるよ」
肩を抱いていただけの生田の腕に力がこめられ、ぎゅっと身体全体を抱きしめられた。
「……それはともかく、一週間、家開けることになるから、何回か来て郵便受けのもの取っておいて。溜まると留守だとバレるから」
「なるほど……。確かにそうだね。任せておいて」
私が素直に頷くと、微かに溜息が聞こえて来た。
「……それが、何を意味してるか分かってる?」
「え?」
「郵便受けなんてただの口実。俺がいない間でもここに来てほしいってことだよ。俺のこと思い出せってこと」
「そ、そういうこと? なんだ。じゃあ、ここに住み込もうかな……?」
そんな裏の心理、私に分るわけがない。
「おまえのマンションよりここからの方が職場も近いだろ? それに、沙都がここにいてくれるって思ったら、少しは寂しさも紛らわせる」
「生田も、寂しいの?」
「それを聞くか? 当たり前だろ」
私も生田の胸に頬を摺り寄せる。この温もりは確かなものだ。
「おまえのいない生活なんて、もう考えられない」
本当に――?
不意にそう思ってしまった自分が嫌で。生田の胸をぎゅっと掴む。
「――ああ、ホント、拷問だ。クソ姉貴」
「な、何?」
生田が何かに堪えるように私を強く抱きしめる。
「今すぐ抱きたい」
「だ、ダメに決まってるでしょ!」
「そんなこと分かってる。姉貴のいる傍でなんて、いくら俺でもそんなに悪趣味じゃない。だから、腹が立つんだろ。ああ。くそ」
クソ、とか、あー、とか呻きながらお姉さんを恨めしそうに睨みつける生田に、つい笑ってしまった。そんなことはつゆ知らず、お姉さんはすやすやと眠っていた。