臆病者で何が悪い!

翌朝、お姉さんはすっきりとしたような表情で目を覚ました。

「今日は、買い物したいの。いい?」

「もちろんですとも!」

二人で朝からきゃっきゃと騒いでいると、相変わらずのローテンションの生田が呆れたように息を吐いていた。
その日は、嫌がる生田を荷物持ち要員として、街へと繰り出した。お姉さんは、もう、あれもこれもと勢いよくたくさんのものを買い。次から次へと店を巡った。

「いい加減にしたらどうだ?」

「だって、さすが東京、欲しいものだらけなんだもん。あ、これもステキ。どうかな、沙都さん」

お姉さんが一枚のワンピースを身体に当てて私に見せる。

「もう、たまらないです。お姉さん、何でも似合うから、見惚れちゃって」

本当にそうなのだ。だって、そこいらのモデルよりよっぽど女らしいスタイルで、その上その辺の芸能人より綺麗な人なのだ。もう、私はだらしなく口をあけて見惚れるだけ。

「沙都さんだって、綺麗な子だよ? スタイルだって、出るとこ出てて女性らしいラインだし」

そう言うと、手にしていたワンピースを置いて私の側へとやって来た。

「そんなことないですよ。お世辞なんてやめてくださいっ」

お姉さんが私の隣に立ち、肩に手を置く。

「沙都さんにお世辞なんて言わないよ。誰よ、沙都ちゃんを女扱いしない男って。そいつがバカなんでしょう? よく見てごらん? 温かみの溢れた優しい目。それに、意志の強そうな眉。魅力的な表情してるよ」

私を姿見に映しながら、お姉さんが囁く。

「だから、もっと自分に自信を持ちなさい」

鏡越しにお姉さんの強い眼差しを感じる。

「『私なんか』って思うことは、あなたを選んだ眞までも蔑むことになるよ?」

私の耳元に口を近付け、私にだけ聞こえるようにそう言った。

「……え?」

そんなこと、考えたこともなかった。

「ねー、眞。沙都ちゃんは、いい女だよね」

今度は、少し離れたところにいる生田に向かって大きな声をあげるから。気恥ずかしさでいっぱいになる。

「そんなの、当たり前だろ」

「だって」

お姉さんは、遠慮する私に構うことなく一着のワンピースを買ってくれた。それは自分じゃ絶対に選ばないような、女性らしいデザインのもの。

「着るもので、気分も変わる。絶対に似合うから」

そして、またこっそりと耳打ちした。

――お世話になったお礼。あいつに直接礼を言うのは癪に障るから。だから、私から眞へのお礼として、このワンピースを着た姿で眞とデートしてあげて。そう言ってにっこりと微笑んだ。

そうして、お姉さんは笑顔で帰って行った。きっと、その笑顔の奥には簡単には消えない痛みを持っている。でも、少しでも前を向こうと思えたら。また、新しい人生を歩き出せるよね。颯爽と歩いて行くお姉さんの背中は、やっぱりカッコ良かった。

「やっと、うるさいのが帰ったな。さあ、俺たちも帰るか」

「うん」

私は、ちゃんと、未来から目を背けずにいられるだろうか――。
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