臆病者で何が悪い!
1. 女子力ってなんだっけ?



「うぇーい」

キンキンに冷えたジョッキを高々と掲げる。

梅雨真っ只中の七月初旬、湿度も高くどこかムシムシとしたそんな日の夜に飲む生ビールは最高だ。
仕事に疲れた勤務後なら、尚更のこと。

「『うぇーい』って、おまえ。そんな乾杯の音頭あるかよ」

私の隣に座る同期の男、桐島が心底呆れたような視線を投げ掛けて来る。

「乾杯の音頭の途中で勢いぶった切るようなこと言わないでよ。このジョッキを掲げた手、どうしてくれんのよ」

中途半端な高さを保った私の腕は、中途半端な状態で放置されている。

「はいはい。そりゃ、スミマセンでした。それにしたって、もっと女らしい音頭があるだろが」

「それが謝る人の言葉? まあいいや、とにかく、かんぱーいっ!」

職場近くの大衆居酒屋にある唯一の個室に集まった、同期。誰もが皆、飲み物片手に宙ぶらりんの状態だった。桐島と無駄に言い合っていてもしょうがない。勢いだけで改めて乾杯の音頭を取った。

「お疲れーっ」

長テーブルの左右に、7人と8人で腰掛けている。私は、既に定位置となっている入り口に一番近い端の席に座っていた。注文を取ったり会計に出たり、あれやこれやをするには便利な席だ。

少々古さも否めないこの居酒屋は、こうして同期が集まって飲み会をする時に使う場所だった。

就職したての頃は、『仕事帰りの飲み会』というものにどこか憧れがあって、少し背伸びをした”お洒落なダイニング”みたいな場所を開拓したりもした。


でも、就職して四年も経てば、雰囲気なんかよりも職場から駆け付けやすくてお値段も良心的、そして気を使わずにいられることの方が大事だった。

それで結局なんてことない居酒屋に落ち着いた。そんな居酒屋『運』は私たちの憩いの場所だ。

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