臆病者で何が悪い!
10. すり抜けて行く想い ―side眞―
――仕事。仕事に戻らないと。
呆然としているのか、感情が高ぶっているのか、自分の身体であって自分のものではないような心許ない状況で、人の行き交う歩道を歩く。
何が起きて、その結果としてどうなったのか。
事実を認識することを身体全体で拒否しようとしているのか、まったく頭が機能していない。
ただ、心だけは、酷い悲しみに覆われていた。
そして、胸はひりつく痛みに襲われていた。
「……仕事」
全部放りだして飛び出して来た。
すぐにでも戻らないと、迷惑がかかる――。
機能していないはずの脳はそれだけは認識しているみたいだけれど、上手く切り替えることができない。
――なんで、こんなことになったんだ。
仕事、仕事と必死に切り替えようとすればするほど、浸食するように沙都の顔が浮かび、現実に起きたことを俺に知らしめようとしてくる。
もう、二人でいられないのか――。
鋭い痛みが貫いて、立ち止まる。
どうしても傍に置いておきたくて、これまで出来る限りのことをしてきたつもりで――。
でも、結局、俺の想いは届かなかった。
届かなくても傍にいてくれるならそれでいいと思えた俺は、どこにいったのか。
でも。本当は、それだけでは満足できなくなっていたのかもしれない。
心もちゃんと、欲しかった。
あいつにも、俺と一緒にいたいと思ってもらいたかったのだ。
――勝手に俺から離れて行こうとした。
その事実に、どうしようもなくうろたえた。うろたえた後は、酷い喪失感が襲った。
これまでだって、何度も沙都のことで苦しいことはあったけれど、一緒にいたいから耐えて来たし乗り越えて来た。
今回だって、あいつに説教のひとつでもしてやって、俺の痛みは飲み込んでしまえばよかった。耐えればいいだけのことだ。そして、また無理にでも俺の傍に置いておけばよかっただけのこと。
でも、今回ばかりはこれまでのようには出来なかった。