臆病者で何が悪い!


激務の一週間を終えて、帰りの地下鉄の中で真っ暗な窓の外をただ見つめていた。

本当はもっとゆっくりといろんなことを考える時間がほしかった――。

そう思って溜息をこぼす。
規則的な振動と機械音を耳にしながら目を閉じる。

転勤さえなければ。
もっとじっくり沙都と向き合っていくつもりでいた。
そして、彼女の気持ちが迷いのないものになるまで、確かなものになるまで絆みたいなものを築いていけるように、時間を積み重ねていこうと思っていたのに。
こんなに早く答えを出させなければならないなんて。

どうするのが一番良いのか――。

窓に映る自分の顔に自問自答する。

『結婚なんて考えたこともないし、したいとも思わない』

年末に俺の実家に一緒に行った時、沙都が言ったその台詞は俺の中に大きく突き刺さったままでいる。
さすがに、ああもはっきりと言われてしまったら、ショックではあった。

沙都の中で、俺との結婚は考えられないということ――。

それを意味しているのだから。
あの言葉があるから、ゆっくり積み重ねていかなければと思っていたのに。
今はまだ、沙都に将来の話をすることが怖い。自信を持てないのだ。

転勤のこと、どんな風に伝えるべきだろうか――。

これもまた自問自答だ。
沙都には誰より先に伝えなければならない。だけど、内容が内容だけにその事実だけを伝えればいいというわけにはいかない。

『二年くらいニューヨーク勤務になる』

それだけを伝えればいいのならそんなに考えることもない。でも、もし俺が言われる方だったら、多分その先の何かがないと不安になる。

ただ、離れるだけ――? その先は――。

何か確かなものがほしいと思う。

まあ、それは俺の場合だけれど。
沙都は、意外に、「そうなんだ」って思うだけかな……。

でも、俺は沙都をほんのわずかでも不安な気持ちにはしたくない。
ただでさえネガティブな奴だ。勝手に不安を大きくして、とんでもない思考に走る可能性もある。

だからこそ、転勤の事実を伝える時には、俺の覚悟と想いを示さなければならない。
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