臆病者で何が悪い!

そうだったのなら――。
沙都はずっと苦しかっただろう。

また裏切られるかもしれないと怯えて、やっぱり裏切られたと失望したか。
自分はやっぱり、本気で愛してもらえるような人間じゃないんだと思っただろうか。

俺は、全身全霊で『沙都はいい女だ』って伝えて来た。
沙都に分からせたくて、これまで俺なりに出来る限りのことをしてきたつもりだった。

それでも何も彼女を変えられなかったのなら、それは俺でもダメだったということだ。
信じられない男と一緒にいるのは、沙都にとって辛いことだろう。

一言、俺に真意を確認するのも怖いほどに、俺のことを信じられなかったのだ。

その勇気を振り絞るほどの価値もない男――。

そんな男と一緒にいることが沙都にとっていいはずがない。
自分の価値を気付かせてあげられなかった俺は、沙都の傍にいる資格なんてない。

そんな無力感と苦しさが込み上げて、哀しくてたまらなくなる。

目の前の沙都を見れば見るほど込み上げて来る何かが、俺を追い詰める。

久しぶりにこうして向き合っているのに、俺から離れて行こうとしたのだと思うとたまらなくなる。

ニューヨークに赴任することを知ってもなお、いや、知っていたのにこうして俺と距離を取ろうとしたことが、きつかった。
それは、本当の意味で俺と会えなくなってもいいと彼女が思ったからだ。

手放してやらないといけない。
そんなに俺から離れたいと思うのなら、沙都の気持ちのままにしてやりたい。

だけど、苦しくてその身体を離せない。

一人でいることが楽で、誰かと過ごすことに喜びなんて見いだせなかった俺が、
沙都といる時は本当に楽しかった。
その存在も一緒に過ごす時間も何もかもが愛おしくて。
ずっと傍にいてほしかった。

そんなことばかり思い返してしまう。
思い返した分だけ突き刺さるように胸が痛くなるのに。

でも、もう逃がしてやらなければならない。

目の前の沙都は、本当に苦しそうで辛そうだから。
そんな顔をさせたくて傍にいたんじゃない。
俺といることでそんなに苦しむのなら、もう逃がしてやる。

やっぱり沙都には笑っていてもらいたい。

今度こそ、沙都が心から想えて心から信じられるような男と、幸せに――。

なんて、いい男ぶることもできない。
そんなこと俺の口から言えない。

だから、ただ、離れてやることしか出来なかった。
それが俺の精一杯だった。
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