臆病者で何が悪い!
その後はどんな状態で仕事に戻り、どんな状況で仕事をこなしていたのか、意識がない。
それでも、係員から何も言われなかったのだから、それなりにこなしていたんだろう。
平日は仕事に追われて、飲み込まれて、自分の意識を捨て去った。
あの日の翌日、沙都は休んだけれどその次の日には出勤していた。
それでも、もう俺たちは目も合わさない。
沙都も俺を見ないし、俺も見られない。
見てしまえば、簡単に俺の決心なんてなかったことにして無理やり俺のマンションに連れ帰ってしまいそうだからだ。
深く考えると、奈落の底に叩き落とされそうで、無理矢理に仕事に埋もれた。
何も考えたくない。
寝る間も惜しんで仕事をしていた。
眠るのも怖かったからだ。
「生田さん、ちょっと根詰め過ぎじゃないですか? 俺たちも手伝いますから」
その週末、見かねたのか鶴井さんが俺の席にやって来た。
「いや、俺が気になってやっているだけなので。鶴井さんや田中の割り当て分はきちんと処理してもらってるので問題ないです」
慌ててそう答えても鶴井さんは納得していないようだった。
「それにしたって、毎日帰りが2時、3時じゃないですか」
「俺は慣れてるから大丈夫です。いろいろ詰めておきたいこともあるし。それに、本当に身体壊しそうになったらちゃんと自分でセーブするんで」
「……分かりました」
しぶしぶというように頷いて鶴井さんは席に戻って行った。
何かをしていないと、おかしくなりそうで。
日一刻と、日本を経つ日が近付いている。
何かに没頭していないと、自分がバラバラに砕けてしまいそうだった。