臆病者で何が悪い!
隣に座る田崎さんにも、もう、職場だからと言って普通に接しようと取り繕うこともできず、社会人らしからぬ態度しか取れない。唯一、すべてから逃れられる時間と言えば、昼休みだけだった。
「沙都! 沙都、待って」
庁舎を出て近くのカフェへ行こうと足早に歩いていると、大きな声で呼び止められた。
「希……」
私を追いかけてくるように走って来たのは、希だった。その姿にも、一瞬身を固くする。真っ直ぐに見ることもできない。息苦しい罪悪感が襲う。
「これからお昼でしょ? 一緒に食べようよ」
「あの、私は――」
「いいから、行こう」
いつになく強引に、希が私の腕を引っ張った。
ビルの一階に入っているチェーン店のカフェに二人で入った。
「沙都がそれくらいしか食べないなんて珍しいじゃん。コーヒーとパン一個?」
「え? ああ……」
「生田君と何かあった?」
カウンター席で隣合わせで座る希が私の顔を覗き込んで来た。
「この前。いつだっけ……ああ、先週? その前かな。慌てふためいた生田君から電話かかって来たからびっくりして。生田君から電話かかって来たの初めてだよ?」
「え? 希に……?」
生田が……。
「そうそう。私も心配したよ。でも、次の月曜日には、沙都、職場に来てたし、問題なかったんだなって思ってたんだけど。でも、最近沙都を見かけても元気ないし。どうしたのかなって」
「ごめん……」
希にまで心配かけていたんだ。説明しないととは思うけれど、希に何と言えばいいのか分からなかった。どこを省いて何を言えばいいのか。上手く頭が働かない。
「――ごめん。もう少ししたら話せると思う。心配かけたのに、何も言えなくてごめん」
生田の転勤は、まだ省内では公にはされていない。私が軽々しく口にするのも躊躇われた。そして、それ以上に、私の中で何も解決していないのだと分かった。だから、何も言葉に出来ないのだ。
「分かった。それは、話をしてくれるってことだもんね。じゃあ待ってる」
「うん。ありがとう」
なんとか笑顔を作り、沙都の顔を見る。
「なんか、元気のない沙都は沙都じゃないみたいだから。早く元気な沙都に戻ってね」
戻れなくたっていいと思ってしまう。戻る必要なんて、もう、ない。