臆病者で何が悪い!

それからすぐに、省内では転勤予定者の人事が発表された。分かっていたことではあるけれど、生田がここにいてくれる時間がもう残り少ないのだと実感させられる。書類を総務課に届けるために廊下を歩いていると、桐島に声を掛けられた。

「ちょうどよかった、おまえに今メール送ったところなんだ」

「メール?」

廊下の端に寄るように促されると、桐島が用件を一方的に告げて来た。

「生田、ニューヨークなんだろ? それで、生田の壮行会兼同期飲みを企画しないとな。幹事はもうお約束の俺とおまえ。特に今回は、おまえ生田と同じ課だし気合い入れてやれよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ、私は――」

今回ばかりは、ちゃんとやれる自信なんか――。

「なんだよ。毎回毎回おまえ幹事してるのに、なんで今度に限って難色示すんだ? むしろ今回はおまえから企画するべきだろうが」

桐島の意見はもっともだ。もっともなのは分かるけれど、どうしたって普通の顔でやれるはずがない。

でも――。ここで断ったりしたら、絶対におかしい。何も知らない桐島も不審に思う。それに、生田にも――。私はこれまでずっと飲み会の幹事をやり続けて来た。例え、生田と私がこうなってしまっても、私が生田に世話になって来たことには変わりない。もしかしたら、私が幹事をやるのは生田も居心地が悪いかもしれないけど、でも、その不安よりも私が引き受けないことで何かを感じさせることの方が嫌だ。もう生田とは当分会わなくなる。
最後は、ちゃんと――。

「分かった。私がやるよ」

「よし。俺が生田に都合のいい日をメールで聞いてるから。その返信があったらおまえに知らせるよ。その後、同期の出欠取ってくれ」

「了解」

そうして、桐島とは別れた。最後にちゃんと生田を送り出してあげられれば――。そう考えることで、行き場のない想いを整理しようとした。いや、紛らわせようとしていたのかもしれない。
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