臆病者で何が悪い!
自分自身が本当に望んでいること――。
それを突き詰めたら、居ても立ってもいられなくなりそうで、必死にその想いに蓋をしていた。仕事に逃げて、生田への想いを『送り出す』ことに置き換えて、身体全部を固く閉ざす。
「これ、どうぞ」
すべての余計な感情を跳ね飛ばすために、ただ仕事だけに集中していた。だから、不意に自分に向けられた生田の声に、全身が反応する。
「弁当買ってたら、しむらやが目に入ったから。あんぱん」
少し硬い口調でそう言うと、生田が白い紙袋を差し出して来た。
「あ、りがとう……」
なんで、こんなこと――。頭が混乱する。
だって、生田は私のことを怒っているはずで、もう冷めているはずで……。でも、次の言葉で、私の感情を囲んでいた膜が壊れそうになった。
「あんまり、無理すんなよ」
「うん……」
もう本当に生田の中ではすべてが吹っ切れているのだと分かった。生田の中に怒りがあるうちはまだ良かったのかもしれない。でも、生田は既に怒りすら感じていない。『冷めた』というのはそういうことだ。恋愛感情の反対は『怒り』ではない。『なんの感情も湧き上らない』ということだ。散々夢でまで見て分かっていたはずなのに、こうして改めて生田の思いを突きつけられたからといって傷付く私は、どうしようもなく傲慢な女だ。