臆病者で何が悪い!
「じゃあ、本当に一言」
緊張するでもなく高揚するでもなく、いたって普通の、表情一つ変わらない姿がそこにある。
「俺は、金髪美女に興味はないので、桐島の期待には応えられない」
無表情でそんなことを言う生田に、どっと笑いが起きる。
「じゃあどんなのになら興味が湧くんだ」とすぐさま声が飛んで来た。
「――それはともかく、どうせ2年か3年後にはまたここに戻って来るので、せめて忘れないでいてほしい。向こうでは、俺なりにやれることをやって来るつもりです。今日は、ありがとう」
頑張れよ。そんな声がそこかしこから飛んで、本当のお開きとなった。
生田はやっぱり、生田で。そこにいる生田は、みんなが知っている生田だった。
「沙都、今日はお疲れ様。飲み会の幹事に酔っ払いの介抱、お酒の注文、会計とお世話になりました」
「なに? どうしたの、希……」
会計を済 ませて『運』を出ると、玄関のところで希が待っていましたとばかりに声を掛けて来た。
「だから。今日の二次会はもういいよっていうこと。沙都の代わりに私が幹事やるし、桐島君も遠山君もいるし。だから、もう沙都はいい」
「え? でも――」
「生田君も、明日発つから今日はもう帰るらしいし。じゃあ、そういうことで」
「え、えっ?」
ちょっと――その背中に手を伸ばしても、希はさっさと行ってしまった。そして、店の前で集まっている同期の輪の中に入り、その集団を引きつれてどこかへと消え去ってしまった。店の前で、一人取り残される。