臆病者で何が悪い!
「お姉さん、大丈夫ですか!」
銀座第一ホテルの310号室のドアを叩く。
「お姉さん――」
「沙都さん、やっぱり来てくれた」
開いたドアから顔を出したお姉さんは、以前に見たのと同じ、いつも通りのお姉さんだった。
「え……っと、何かあったんじゃ……」
私の方は、髪はぼさぼさでメイクも昨日のままで剥がれまくって。
きっと、どうしようもないほどにみっともない姿でここにいると思う。訳が分からなくて、目をぱちくりとさせた。
「とりあえず、入って」
そう言って部屋の中に入って行ってしまったお姉さんに続く。
「お姉さん、一体……」
取り乱している私とは正反対に落ち着き払った姿で、私にお茶を差し出して来た。仕方なくそこにあったスツールに腰を下ろす。
「こうすれば、きっと沙都さんは私に会ってくれると思って」
「何言ってるんですか……? お姉さんに会いたいと言われれば、私は断ったりしません――」
「本当に?」
その表情はいつも私に見せてくれる優しいものではあったけれど、視線だけは厳しかった。私の向かいのベッドに腰掛けて、私をじっと見つめて来る。
「だって沙都さん、眞と別れるつもりなんでしょう? 眞と別れたら私とは関係なくなるじゃない」
「それは――」
生田はお姉さんにすべて話したのだろうか。
「人の恋愛に首突っ込むつもりはない。大人同士なんだから始まるのも終わるのも二人の責任でするべきだと思うから。だけど、どうしても沙都さんと話をしておきたかった」
そう言うと、お姉さんは静かに私を見据えた。