臆病者で何が悪い!
「その気持ちを眞に伝えられないのはなぜ? ああ、そうか。沙都さんに言わせれば、眞を傷付けたから、眞はもう冷めたんだっけ? もう自分のことをなんとも思っていない人に本当の気持ちを伝えるのは嫌だよね。冷たくあしらわれたら、嫌だもの。傷付くもんね。そうやって、いつまでも逃げていればいい!」
お姉さんの挑発するような言葉に、ただ頭を振ることしか出来ない。それもそうだ。それは全部図星なのだから。弱くて臆病な、どうしようもない私そのものだからだ。
「……やめて、ください」
聞いていられないのは、お姉さんの言葉が辛辣だからじゃない。情けない自分が許せないから。全部全部、向き合うのが怖いから。涙ばかりが溢れる。苦しくて悲しくて悔しくて。頭を抱えて震える私に、優しい手のひらが降りて来た。
「――沙都さん。あなたの気持ち、わかるのよ。傷付いて来た人間は、容易く人を信じられないってこと」
優しく諭すような声に、胸が苦しくなる。止まらない涙のせいで、息もできない。
「あなたが逃げてしまうのは、眞を愛してないからじゃない。本当はすごく想っている。それが私には分かるから、放っておけないのよ」
そう言って、私の髪を何度も撫でる。
「でもね、最後は自分で決断しなくちゃいけない。沙都さんが、自分で行動を起こさなくちゃいけないの。最後に傷付く勇気を出せるかどうか。そうでないと、あなたはいつまでも逃げるだけの人になっちゃうよ」
最後に傷つく勇気――。
「眞だって、不完全な人間だよ。迷ったり悩んだりしてたはずだよ。逃げたいと思ったこともあるかもしれない。怖いのはあなただけじゃない。みんなそうだもの。だから、誰のためでもない。自分が後悔しないためにももう一度心の声を聞いて。ただ、自分の気持ちにだけ耳を澄ませて」
優しいけれど強く、私の肩を掴んだ。
「――そこから逃げないで。何もしないで逃げるのは、結局自分を一番傷付けることになる」
「お姉さん、私は……」
私は、生田のことが好きだ。何より大切な人で。ただそれだけは、本当の気持ちで。ずっと隣にいたいと思っていた。今でも、その気持ちは少しも変わらない。たとえ、生田の気持ちが変わってしまったとしても。
「……好きなんです。今も変わらず、すごく大切な人です」
泣きじゃくる私を見て、お姉さんが眉をへの字にして笑った。