臆病者で何が悪い!

「うん。知ってる。だから、自分の気持ちから逃げないで。自分自身から逃げないで」

私も笑おうとするけれど、泣きたい気持ちの方が勝ってしまって上手く笑えない。

「――あいつも、ああ見えて結構バカだからさ。もし、沙都さんが本当の気持ちを伝えても眞に振られたら、私に言ってよ。沙都さんの代わりにニューヨークに行ってボッコボコにして来るから」

「……はい、その時はお願いします」

無理矢理に笑みを作ってそう答えた。

「誰かにしてもらうんじゃない。臆病者の殻は、自分で脱ぎ捨てなきゃ」

お姉さんはそう言って、最高に綺麗な微笑みをくれた。

「すみません、私、行きます!」

もう、時間がない。最後に、私の気持ちを正直に、全部伝えたい。傷つく怖さも何もかも、全部取っ払う。ちゃんと自分で終わらせる。

生田と過ごした時間は、消し去りたい記憶なんかじゃない。例え終わってしまう恋だとしても、悔やむ恋になんかしたくない。かけがえのない、大切な記憶だ。愛されることの幸せを初めて教えてくれた。生田からもらった想いは私の宝物だから。

「――まったく。人って、土壇場にならないと力が出せないものなのよねぇ」

ぶつぶつとひとり言のように呟きながら、お姉さんがメモを差し出した。

「どうせ、眞が何時の飛行機に乗るのかとか知らないんでしょう? はい、これ」

それには、「ANA成田発16:40ニューヨーク行き」と書かれていた。よりにもよって、羽田空港ではなく成田空港――。咄嗟に時計を見る。

「今から行けば間に合うでしょ? うちの母親には空港に見送りなんか行かないように言ってあるから」

「え?」

「だから、安心して、あのクソ弟を探し出して」

女の私でも見惚れてしまう魅惑的な瞳でそう言った。

「私の気持ち全部、伝えて来ます!」

ホテルの部屋を飛び出し、リムジンバスに飛び乗った。玉砕覚悟の、決死の告白をしに行くんだ。臆病者だった内野沙都は、ここに置いて行く。
< 352 / 412 >

この作品をシェア

pagetop