臆病者で何が悪い!
出発ロビー目がけて死にもの狂いで走る。
空港内のロビーにある背の高い時計が目に入る。時刻は15:00――。まだ間に合うはずだ。
どうして、国際空港というところはこんなにもだだっ広いのよ!
どこに向かうにも果てしなく遠く感じる。走っても走ってもたどり着かない。絶対に顔を見て話したい。行ってしまう前に、一目会いたい――。
そうだ。スマホ。電話して、そこで待っていてもらおう――。そう思い小走りになりながら、コートのポケットに手を突っ込む。生田の番号を表示させて、スマホを耳に当てる。繋がらない。もう、回線を解約してしまっているんだ。そりゃそうだ。これから外国に住むんだから。泣きそうになる。こんな土壇場になるまで決断できずに逃げていた自分を恨む。いくらでも時間なんてあったのに――。
第一ターミナルの各航空会社のカウンターを横目に走り、セキュリティチェックエリアの入り口を探す。そこに入ってしまったら、もう絶対に生田を捕まえることはできない。神様、お願いです。最後に一度だけ、この愚か者にチャンスをください――。ここで生田に会えるのなら、この先もう出会いなんて一切なくてもいいです。一生独り身で生きていくのだって構わない。
だから、お願いです――。
そんなことが生田に会えることの引き換えになるのか分からないが、必死に願う。
お願いだから――。これからどこかへ旅立とうとしている人たちを掻き分けて、髪を振り乱して走る。
生田――。
片方の肩からコートがずれ落ちているのには気付いても、それでも辺りを見回しながら走っていた。
生田――?
その時、まさにセキュリティチェックエリアに入って行こうとしている生田の姿が目に入った。それは背中だけれど、私が生田を見間違うはずがない。背の高い、黒髪の、その後姿は、絶対に生田だ。
「生田っ!」
黒いジャケットを着たその背中に、声を限りに叫んだ。
声に振り返った生田が、忙しなく視線を動かしている。やっぱり、生田だ。私は、生田の元に走る。