臆病者で何が悪い!
「生田……っ!」
「……沙都」
その視線がぴたりと私に向けられる。バスを降りてからずっと走り続けて、胸がひりつくように痛い。はぁはぁと乱れた呼吸は収まらなくて、膝に手を付き、もう片方の手で何度も自分の胸をさする。驚いているのか、困惑しているのか、私の真正面に立っているはずの生田は無言のままだ。
もしかしたら、戸惑っているのかもしれない――。
そう思って及び腰になってしまいそうな自分に喝を入れる。ここで引き下がるわけにはいかないんだ。せっかく出発してしまう前に生田を捕まえることが出来たんだから。怖くても、生田の目を真っ直ぐに見て、伝えたい。
膝についていた手を離し、身体を起こして、生田の目を真っ直ぐに見つめた。
「ごめんね、こんなところに押しかけて来て……」
まだ息苦しいけれど、なんとか言葉にする。見つめた先にいる生田は、やっぱり驚いたように私を見ていた。
「最後に、ちゃんと私の気持ちを伝えたくて。あの日から、私は何も言えないままだったから」
生田の表情はどことなく強張っているから、忘れていた緊張が蘇って来る。
「少しだけでいいから、聞いてほしい」
そう言うと、生田は頷いてくれた。
「生田が追いかけて来てくれた日、私、生田に何も言葉を返すことが出来なかった」
田崎さんとカフェにいたところを連れ出されて、生田の言葉を聞いて、自分のしてしまったことの大きさにおののいた。何も言えずに生田を行かせてしまった。
「あの時、生田は『結局おまえは俺のことなんか好きにならなかったんだ』って言ったよね。本当ならあの時私はちゃんと反論しなくちゃいけなかったの。だって、そんなの事実と全然違うんだもん!」
「沙都……」
いつも優しく見つめてくれていた切れ長の目が、ほんの一瞬見開かれる。
「だけど、生田に与えてしまった傷はとてつもなく大きいんだって知って、いまさら自分の気持ちなんて言えないって思った。生田は私に愛想を尽かしたんだって、もう私のこと嫌いになったんだって」
「それは――」
「ごめんなさい。生田を信じられなくて。何も言わずに逃げたりして、本当にごめん!」
「もう、いいんだ――」
頭を深く下げる私に、慌てたような声が降って来る。全然まだ、足りない。今言えなければ、もうきっと、一生言う機会なんてない。