臆病者で何が悪い!
「もう傷つくのは嫌だった。これまでの傷なんかより、ずっとずっと怖かった。他の誰でもない、生田に傷付けられるってことの方が怖かった。だから逃げたの。それは、それだけ生田のこと本気で好きになってたからで……!」
真っ直ぐに、ただ真っ直ぐにその目を見た。私の誰より大切な人。
「私は、とっくに、生田のこと好きになってたよ」
「――沙都」
「いつもいつも生田のこと考えてた。一緒にいると楽しくて、ドキドキして。死ぬほど幸せで。だから、あのはがき見て、生田は本当は違うのかもしれないと思ったら、余計に怖かった。だから逃げちゃった。私、バカで臆病で、どうしようもないから――」
もう、文脈も脈略も何もかもがめちゃくちゃで、言いたいことがちゃんと伝わっているのか分からないけど、とにかくこの気持ちだけは伝わってほしい。ただそれだけを願った。
「でも、私は今も生田のこと好きだから! ずっとずっと好きだから。それだけは、信じて。私は、生田のこと大好きです!」
ここがどこかも忘れて、生田以外視界に入らなくて、おばかさんな私はそう叫んでいた。まっすぐに見つめているつもりでも、この目が滲み始める。生田の身体の輪郭がゆらゆらと揺れた。
「そ、それだけは伝えておきたくて――」
「バカ」
ゆらゆらと滲んでいた生田の姿が視界から消えた。そう思ったら、何かが私を抱き留めている。それがなんなのか、一瞬理解できなかった。
「おせーんだよ」
でも、愛しい人の声が耳元すぐ近くで聞こえるから、その腕も声も生田なんだと気付く。気付いた途端に、驚きと緊張で胸がとんでもなく早く鼓動し始めた。
「ご、ごめん。そうだよね、遅かったよね……。いまさら、ごめん――」
――遅い。その言葉が脳に届くのに時差があった。
大丈夫。それも、覚悟の上だった。本当の気持ちを伝えたからって私の気持ちが届くなんて、そんな都合のいいことは考えていなかった。それでも私の気持ちは伝えられたんだから、悔いはない――。