臆病者で何が悪い!
「もっと早く言えよ」
「ごめん……」
遅かったんだということは分かった。なのに、どうして私は抱きしめられているんだろう――?
「ご、ごめんね。こんな土壇場にならないと動けない奴で。でも、最後に伝えられて良かった。じゃ、じゃあ――」
「何が、最後だよ」
「……え?」
抱き締めていたはずの腕が離され、その大きな手のひらが私の両腕を強く掴んだ。間近に寄せられた生田の顔に、思わず身を引いてしまう。
「それにしても、酷い姿だな、おまえ」
「え? あ……」
目の前の生田は、泣きそうでいて表情は緩んでいて、そして笑っていて、私は私でこの状況がまったく理解できない。
「そんなに慌てて来たのか……?」
「う、うん。飛行機行っちゃう前にって……」
泣きそうに笑う生田の視線が気になって、我に返る。そうだ。化粧は剥がれて、服は昨日のままで、おまけにコートは肩からずれ落ちている。
「――やっ、あんまりまじまじ見ないでっ。今、私の顔、酷いからっ」
咄嗟に身体を引こうとしたけれど、それ以上の力で生田の方へと引き寄せられた。
「もう遅い。いっぱい見た。おまえの世紀の大告白、瞬きもしないで見てたから」
「ちょっ――」
生田が私をもう一度強く抱きしめた。久しぶりに胸に入り込んで来る、生田の匂い。
「――本当に、酷い恰好だ」
「だったら、離してよ――」
「おまえが、酷い恰好過ぎて、泣けてくるだろ……」
「……え?」
生田から離れようとその腕の中で身を捩り、必死にその腕を掴んでいた手を止める。
「そんなに慌てて、必死になって来てくれたんだって」
「生田……」
吐き出された生田の声に、私の胸がぎゅっと締め付けられる。
「ああ、くそっ」
私を胸に抱きながら、生田が呻く。
「もう当分、おまえに触れられるなんて思ってなかったから、不意打ちみたいでたまらないんですけど。どうしてくれんだよ、もう行きたくない。このままおまえ連れて逃げたい」
そう言って私を押し潰すように抱きしめて来た。
「……あ、あのっ」
「何」
おそるおそる声をあげる。ここは、怖いけど、確認しなくちゃいけない気がする。
「え、えっと、私とのこと、もう済んだことになってるんじゃ……」
「はぁ?」
今度はどすの効いた声がして、勢いよく身体を引き剥がされた。