臆病者で何が悪い!

「生田君ってそういうキャラだったの? 甘々だねぇ。沙都にだけ特別?」

希がニコニコとそんな余計なことを言い出した。

「あたりまえだ」

あまりにきっぱりと言うものだから、周囲が静かになってしまった。

「そうだろうね。沙都だからだよねー」

「ああ。俺にとって最高の女だから」

クラっとする――。

「やってられねーよー! なんだ、これ」

どうしてあんたが怒ってんだ。桐島が、ジョッキを乱暴に持ち一気に飲み干していた。

「生田君を追いかけてニューヨークに行くってことは、それはつまり……?」

「結婚?!」

周囲のボルテージも最高潮になり。遠慮も何もなくなって、またそんな爆弾をぶっこんで来た。

「ちょ、ちょっとやめてよ。そんな話、いいから――」

また一緒にいることにはしたけれど、”結婚”の二文字はまた出ていない。
一人あたふたとする私の腰を、あろうことかこの男は抱き寄せた。

「ひーっ。な、なにっ」

生田の顔が間近に迫る。な、な、なんなのよ。

「絶対にイエスと言わせるから。だから、みんなに心配してもらう必要はない」

私の腰を引き寄せながら、同期みんなにそう言い放った。そんな悪い冗談を言って私を翻弄する生田さんに、私なんかが太刀打ちできるわけもない。

「誰もそんな心配してないんだよ――って、ということはこれからプロポーズするってことか?!」

誰かが喚いているけれど、私はそれどころではない。その瞳に捉えられて固まるのみ。

「――あとで、覚悟しておけよ。分かったな」

今度は私の目をじっと見て囁く。何を覚悟すればいいのかよく分からないまま、操り人形のようにかくかくと頷くのに精いっぱいだった。

「二人とも、くっつき過ぎ。見せつけすぎっ!」

また別のところからも声が聞こえる。申し訳ないが、そんなこと言われても私もこの男になされるがままで困っている。

「生田、おまえ、一体どうした!」

まったくです。アメリカに行っていたほんの数ヶ月で、またパワーアップしたのではなかろうか。そんな騒ぎを遮るように希が声を張り上げた。

「今日は、沙都の行く末を祝う会にしよう!」

ジョッキを高く掲げて私を見つめる。

「沙都、おめでとう!」

希の満面の笑みをくれた。
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