臆病者で何が悪い!
「もうおまえをどこにもやりたくないから。この先ずっと、俺の隣にいて」
「生田……」
じわじわと勝手に涙が込み上げて来る。もちろん私もずっとずっと一緒にいるつもりだった。もう絶対離れないと決めていた。でも、その言葉をこんなに早くもらえるとは思っていなかった。
「答えは?」
涙を溢れさせる私を包み込むように見つめて、長い指が涙をぬぐう。
「――はい」
内野沙都のくせに、乙女にでもなったみたいに、か細い声でそう答えるのが精一杯で。
込み上げる涙と、こみあげる微笑みで、おかしな顔になってしまう。
「やっと、言えた。やっと、渡せるよ」
そう言って生田も笑う。差し出された小さな箱から指輪が取り出されて、私の左薬指にゆっくりと滑って行く。それは、私のこれまでの人生で、見たこともないほどにキラキラと輝くものだった。
「……準備、してくれてたんだね」
いつもいつも、私の想像のつかない幸せを生田は私にくれる。
「いつ準備したものだと思ってるんだよ」
「え?」
プラチナのリングの真ん中に、シンプルな一粒ダイヤがホテルの薄暗い照明でもきらめくような光を放っていた。初めてはめるのに、指になじむように収まった指輪を見ていた視線を生田に向ける。
「ニューヨークに赴任が決まってすぐの頃だ。それなのに、おまえは――」
あの時――?
私が生田から逃げ回っていた頃。私がバカなことをしている裏で、生田はちゃんと私とのことを考えていてくれたんだ。
「おまえとこれからのこと、ちゃんと話し合いたいと思っていたんだ。俺と一緒に来てくれるにしても、仕事を続けるにしても、どちらにしてもおまえと結婚したいと思っていたから」
「……ごめん。本当に、私、バカだったね」
既に溢れている涙が、もう決壊状態だ。
「もういいよ。今では、おまえから俺のところに来るって言ってくれたんだ。こんなに嬉しいことはない。ありがとう、沙都――」
優しい腕が私を包む。こんな未来が自分に訪れることを、想像出来ただろうか。優しい腕も、暖かい温もりも、胸が高鳴るようなときめきも、全部生田が私に与えてくれるもの。私が生田に与えてあげられるものは一体なんなのだろう。
「私、ずっと傍にいるから」
「ああ。二人で、幸せになろう」
がっしりとした腕が私の身体を強く抱きしめて、それからゆっくりと腕が解かれた。
そしてお互いの視線が交わると同時に生田の唇が降って来た。久しぶりに重ねられた唇は、熱くて、しょっぱい。
「――愛してる」
離れた唇がその言葉をくれた。