臆病者で何が悪い!




東京都と言っても、かなり奥の方にある私の実家。


――東京にも、こんなとこがあるのか。


そんな心の声がばっちり聞こえて来そうな表情をしながら、生田がせわしなく辺りをきょろきょろと見ている。


「東京って言ってもね、結構広いんだよ。島だってあるんだしさ」

「は? 俺、何も言ってねーけど?」

「心の声が聞こえてますよ」


駅の改札を出て、バス乗り場へと向かう。

こんな郊外に住んでいながら自宅までバスとか、学生時代は本当に勘弁してほしいと思っていた。

実家を出て一人暮らしを始めてからは、帰省する際は必ずお父さんが駅まで迎えに来てくれたのに。


『明日は自分たちで来てってお父さんが言ってる』


前日の夜、最終確認のために実家に電話をしたらお母さんがそんなことを言っていた。


前からこの日は挨拶に行くと言ってあるのに、何か予定でも入ったかな……。


お母さんの答えもどこか曖昧で、よく分からなかった。

まあ、深く考えることもないかと思って電話を切った。


私の自宅の方面に向かうバス停に並ぶ。
夏の晴れ間は、やはり身体に来る。

スーツを着込んでいる生田は、尚更だろう――。

と思った私がバカだった。

隣に立つ嫌味なほどにすらりと長身の男は、汗一つ流さずに佇んでいた。


この人が、私の実家に来るんだ――。


そんなことを改めて思ってしまった。
なんだか、まったく、現実味がない。


何と言うこともない普通の気のいいサラーリマン父と、ただのおばちゃんの母、そして、やたらときゃぴきゃぴとした妹……。


大丈夫か――?


「ん? どうした?」

「ううん。生田、頑張ってね」

「……俺のことよりさ、その呼び方。おまえの実家でもするなよ?」

「え? 呼び方?」


私は生田の顔を見上げる。


「『生田』って、ただの友達かよ。もっと親密感だせよ」


真面目に言っているのか、またいつもの意地悪なのか、絶妙に曖昧な表情をしているけれど、言っていることは正論だ。


「はい。頑張りマス」


頑張るのは、私だった!



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