臆病者で何が悪い!



私まで緊張して来る。

だいたいのことはちゃんと両親に説明してあるから、大丈夫だと思うけど――。

一度小さく深呼吸をしてインターホンを鳴らす。


「はい。待ってたよ。入ってー」


いつもの、呑気なお母さんの声が聞こえて来た。

玄関のドアノブを掴んだ時、生田が今度はネクタイの首元をまたも絞めていた。
そして背筋をピンとさせて。

私たち二人並んで、ドアを開ける――。


「どーもー! こんにちは!」


玄関に出迎えに来ていた母親が、早速愛想のいい笑顔を振りまく。


「やばっ。ちょ、ちょっと、お姉!」


お母さんの隣に立つ妹の未希が、文章としてまったく成り立っていない声を発して。
口をパクパクさせて目を大きく見開いている。


「お母さん、こちら、生田眞さん」


私はそんな未希を軽くスルーして生田を紹介した。


「初めまして、生田眞と申します。本日はお休みのところ、お時間をいただきありがとうございます」


職場の上司に対してよりもずっとずっと丁寧な生田の振る舞いに、隣に立つ私も緊張して来た。

今日は、我が人生にとって、結構大事な日なんだと改めて思う。


「こちらこそ。お待ちしていましたよ。さあ、おあがりください」

「お母さん、お父さんは?」


玄関先にも出て来ていなかった父親のことがふと気になって、軽い気持ちで聞いてみた。


「――うん。居間の方にいるから。うん」


ん――?


その反応は一体何だろうか。
何かが引っかかる。



「お父さん、今、帰りましたー」


居間に足を踏み入れる時に、父親に声を掛けるも反応はない。


「お姉、生田さん、ちょーカッコいいんですけどっ! どうして、そんな人お姉がモノにできたのよーっ」


こちらはお父さんの反応が気になってそれどころじゃないと言うのに、未希が耳うちして来る。


「ねえ、それよりお父さん――」

「お父さんなら、今日の朝からあんな感じなんだよ。急にどうしたんだろうね」


そう言って未希が、こちらに背を向けて、居間の横にある和室で胡坐をかいて座っているお父さんを指差した。

いつもなら、「沙都、おかえり」ってにかーっと笑顔を見せるはずなんだけれど、その背中は微動だにしない。


私の声が聞こえなかったのか――?



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