臆病者で何が悪い!


「一方的にそちらの話を聞いてやる義務はこっちにはない」

「は、はぁ?」


父の発言に、とうとう私は声を上げてしまった。
そうしたら隣に座る生田が視線で私を制止し、お父さんに向き直った。


「大変失礼しました」


生田が頭を下げている。


いやいやいや。あなた、何も悪くないですから。


私は、キっとお父さんを睨みつけた。
私の鋭い視線に、お父さんが一瞬怯んだように見えたけれど、またお父さんはわざとらしく厳しい表情を作っていた。


「だ、だいたいだ。君はどう考えているんだ? うちの娘は、頑張って入った役所を辞めた。そして君を追いかけてニューヨークに行くと言う。そんな人の娘をさらっていくような真似をして。順番というものがあるんじゃないか?」

「ちょっと待ってよ! そんな、生田を人さらいみたいな言い方して。私、説明したよね? 私が勝手にニューヨークに行くことに決めたんだって。仕事辞めたのも私の意思で――」

「沙都さん、いいんだ」


”沙都さん”なんて呼ばれて、一瞬この場の雰囲気を忘れて照れる。

いや、照れている場合じゃない。


「お父さんのお怒りもごもっともです。すべては、私の不甲斐なさによるものです。まずはお詫びをさせてください」


さらに深く、生田が頭を下げた。



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