臆病者で何が悪い!
「本来なら、お付き合いをさせていただくことになった時にご挨拶に伺うべきでした」
「付き合うと言ったって、その先のことは分からない。そんな軽はずみな気持ちで交際を始めたからでしょう? それなら、挨拶に来られないのも無理はない」
「お、お父さん!」
私たちの交際の経緯なんて、何も知らないくせに勝手なことを言って。
どうして、そんな生田を困らせるようなことを言うの?
「私の失礼はお詫びします。ですが、それは違います。私は、将来沙都さんと結婚したいと思い、交際を申し込みました。沙都さんは、同じ職場で働く同僚でした。決して軽はずみな想いからではありません。ずっと、沙都さんのことを想って来ました。昨日今日始まった想いではありません」
ずっと――。
本当にそうだったのだ。
生田の思いは私が考えていたものを遥かに超えていた。
「口では何とでも言えるだろう。パッと見ても、君は色男だ。女性に困るような男には見えない。どうして君が、わざわざうちの娘に? それも、ずっと想っていたって、そんな調子のいいこと信じられないなぁ」
合間合間に少しずつ失礼なこと言ってることに気付いているのかな?
「私はねぇ、君みたいに見てくれのいい男が一番信用ならないんだ。結婚しても、常に女性の影におびえることになるだろう? 本当に、沙都は幸せになれるのか?」
そう来たか――。
さっきは順番がどうとか言っていたくせに。
今度は外見の話に変わっている。
これまで男女問わず外見のいい人はアドバンテージがあるなんて思って来たけれど、思いもよらずこんなところで足枷になるとは。
外見のことなんて持ち出して、そんな本人ではどうしようもないことを言うお父さんが許せなかった。
「私は、好きになれないね」
「お父さん!」
もう頭にきた。
とにかく、生田を怒らせたい。むっとさせたいのだ。
「生田のことを知りもしないで、よくもそんな勝手なことを言えるね。自分の娘が選んだ人を信じられないっていうの――」
「私は」
生田が私の叫び声を打ち消す。