臆病者で何が悪い!
「沙都さんが持つ、決して人にひけらかすことのない純粋な優しさを見て来ました。たとえ自分に何の得にもならないことでも、つい手を差し伸べてしまう沙都さんを何度も見て来ました」
生田――?
「いつでも、自分のことを忘れて、つい周囲の人間ばかりに気を回してしまう彼女を放っておけません。そして、人の見えないところで涙を流す。傷付いた分だけ笑って見せる。そんな健気な彼女を、私はもう何年も見て来ました。私には想いを告げる勇気がなくて、ただ見ていただけでした」
私は、生田の横顔を凝視する。
その真摯な目に、心を揺さぶられる。
「でも、そんな沙都さんをこの手で守りたいと思うようになりました。どうか、私が沙都さんの傍にいることをお許しいただけないでしょうか。この私に、沙都さんを幸せにする権利をください。お願いします」
生田が座卓から少し後ろに下がり、膝につくほどに深く頭を下げた。
その姿に、家族のだれもが言葉を失う。
生田の想いが、本物かまがい物か、お父さんだって分かるはず――。
そう思って、視線を生田からお父さんに移すと、何故か、お父さんは目を何度も擦っていた。
「お、お父さん……」
私が言葉を失っていると、隣に座っていたお母さんが少し目に涙を溜めながらお父さんの肩をさすっていた。
「――沙都は、いつも自分の感情の一歩手前で立ち止まるような子で。親としてはそれを分かっていても、つい頼りになる沙都によりかかっていたなと思うの。だから、そんな沙都の隠し持つ部分を分かってくれる人を見つけられて、本当によかった。ね? お父さんもそう思うよね?」
お母さんの言葉にお父さんが涙を拭いて顔を上げた。
「父親として、沙都には必ず幸せになってもらいたいんだ。生半可な男じゃ困るんだよ。何があっても、沙都を守れる男でないと。だから、君という人間を知りたかったんだ」
お父さんは、だから、わざと生田に突っかかるようなことを――。
「……沙都を、これまでの人生以上に幸せにしてやってくれ」
――これまで以上の幸せ。
お父さんの言葉に、私は不意に涙がこぼれてしまいそうになる。
「ありがとうございます。人生をかけて、沙都さんを幸せにします。二人で、助け合いながら生きて行きます」
生田がもう一度頭を下げた。
私、思っていたより両親からもちゃんと考えてもらえていたんだ……。
心の奥底で、思っていた。
私より容姿も良くて、なんでも器用にこなす妹の方が実は可愛いんじゃないかって。
そんな子どもみたいに拗ねた感情、当然表には出したことはなかったけれど、ちゃんと私のことを見ていてくれたんだ。
「さあさあ、おめでたいことなんだし。しんみりするのはここまでで、ぱあっと行こうよ!」
居間から未希が乗り込んで来た。
未希もなんだか嬉しそうだ。